研究課題/領域番号 |
21K00368
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
原田 美知子 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 教授 (00291865)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | W. B.イェイツ / バラッド / アメリカの歌 |
研究実績の概要 |
日本イェイツ協会発行の『イェイツ研究』に研究ノート「Music for WordsからWords for Musicへ」と題して、イェイツの手になる晩年のバラッドや歌のなかから、同じ節で歌われる異なる詞として発表された作品を中心に、W. B.イェイツのなかで「言葉」と「音楽」の関係性が微妙に変化した形跡、すなわち「音楽はあくまで言葉に従属すべきもの」から言葉と音楽がまったくイコールとまではいかないまでも、かなり等しい割合で語られるようになった様子を辿った。 さらに『桜美林世界文学』第19号に「カウボーイ・ソングの夢-イェイツの後期のバラッド」と題して、前述した「言葉」と「音楽」の関係性がイェイツの心の中で変化するきっかけをもたらしたのはアメリカの歌との出会いであったことを推論した。イェイツは詩作の修行をするならカウボーイを経験すればよい旨のことを発言しているが、そこにはいくつかのカウボーイの歌が影響していると考えられる。例えば、“The Cowboy’s Dream”という歌は“My Bonnie Lies Over the Ocean”のメロディに乗せて歌われる。後者は伝統的なイギリス民謡で、おそらくイングランド北部(一説にはスコットランド)が発祥の地とされ、「海を渡って行ってしまったボニーをわたしの元へ返して」という海を背景にした内容が、アメリカの“The Cowboy’s Dream”になると、大平原に寝そべって夜空を眺め、こんな自分も天国に行けるだろうかと自問するカウボーイの歌に替わっている。 このように、時代を超え、場所を超えて生き残る歌をアメリカで実際に耳にしたからこそ、イェイツは晩年に読み人知らずのようなバラッドをあえてものしたのではないか、ということを論じ、これら二つの論文を通して、自分の設けたテーマの結論に一歩近づいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度同様、2022年度も本務校の新カリキュラムに合わせて授業内容を調整することに多くの時間を割くことになったが、そのなかでなんとか二つの成果物を仕上げることができた。自分の研究テーマに関連した内外の論文を読む時間が非常に限られているが、だいたいの骨子は出来上がってきたので、先行研究を丹念にチェックしてレファレンスに漏れがないように心がけたい。また、現地調査は相変わらずできていないが、これまでに集めた資料を読み込む作業を継続中である。 イェイツがアメリカ滞在中訪れた地で、どんな音楽が流れていたか、現地の図書館、地元新聞、雑誌を頼りに検証してく作業は捗っていない。また、1927年頃から続々と出始めたレコード、1920年代に始まったラジオ番組にどの程度イェイツが触れる機会があったかは、まだ確認できていない。
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今後の研究の推進方策 |
2023年9月半ばから学外研修の機会を得ることができたので、テキサス州立大学オースティン校のハリー・ランサム・センター(図書館)を拠点として、今後は現地のフィールドワークを中心に研究を推進する予定である。イェイツが訪れたアメリカ各地の大学のアーカイブ、地元新聞、雑誌からイェイツの訪問を告げる記事を見つけながら、当時のレセプションやイベント情報をできる限り集める。また、スミソニアン博物館のフォークソング・コレクションやラジオ局のアーカイブなどとコンタクトをとり、資料を集める。それと同時に、アパラチア地方でイングランド、スコットランド、アイルランドから移民と共に渡ってきたバラッドが変化しながら歌い継がれてきたことを発見したオリーブ・キャンベルについても調べ、変異したバラッドがどのようなものだったかに関する民俗学的研究にも知見を得たい。科研費をいただく最後の年となるが、学外研修は2024年9月半ばまで続くので、コロナ禍で出遅れた分、研究を一年延長して、論文完成までこぎつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外フィールドワークを控えた上に、新カリキュラムによる新しい授業科目の準備に追われ、研究時間を取ることが難しかった。2023年度9月半ばからの学外研修時に余剰額を使用したい。
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