研究課題/領域番号 |
21K00371
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
張替 涼子 東京理科大学, 教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部, 准教授 (70778175)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | John Hardyng / chronicle / readership / marginalia / kingship / female inheritance |
研究実績の概要 |
ジョン・ハーディングの『年代記』写本版及び印刷本に残された書き込みの調査・分析を行った。対象となったのは、2023年3月に英国で調査を行なった写本と印刷本、さらに日本のコレクターが所蔵している印刷本である。その結果、写本の製作者(スクライブ)の政治的・社会的立場を反映した変更が行われていること、作者ハーディングが意識してた点(ヨーク家の女性を介した相続)には多くの読者(写本、印刷本ともに)が興味を示していること、女性の相続そのものに興味を示す読者やスコットランドとイングランドの関係に興味を示す読者もいること、一方で、スコットランドを批判する内容に関心を示している読者は思った以上に少ないことなどがわかった。このような分析の結果の一部を2023年7月に開催された国際学会で発表したが、その際に、写本と印刷本の読者は異なるものとして扱うべきであるという有益な助言を受けることができた。その助言をもとに、写本の制作意図及び対象となった読者と印刷本の制作意図及び対象となった読者を改めて整理・区別し、分析を続けた。印刷本が出版された際に、イングランドはスコットランドと戦争をしていたことから、出版者であるリチャード・グラフトンは『年代記』を反スコットランド精神を喚起する道具として利用しようとしていた。しかし、印刷本の読者の書き込みは、スコットランド関係の記述に極めて冷静かつ公平な態度を示していることがわかった。また、印刷本の読者も女性を介する相続などに一定の関心を示しているが、それはヨーク家への直接的な関心というよりむしろ、自らが所属する社会との関連性への興味が根底にあると考えられる。その顕著な例として、エリザベス1世の政治顧問であったジョン・ディーが所蔵していたコピーの書き込みには、エリザベスによる帝国主義推進の根拠として過去の歴史である『年代記』の記述を利用しようとする様子が伺える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
英国にある『年代記』のコピーはある程度調査できたものの、まだ調査ができていないコピーが存在している。さらに、米国にも複数の現存コピーがあるので、それらの調査が必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
米国および英国に点在するコピーについては全て現地に調査に行くことが困難であるため、できる限り早くデータを取り寄せて、分析を行う。なるべく全てのコピーの分析を行い、その結果をもとに『年代記』の読者の全体像を把握していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は海外出張に費用がかかったため、2024年度分から前倒しで使用することを計画したが、計画通りに使用できなかった。そのため、当初の予定通り、2024年度にこの分を使用することとした。
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