研究課題/領域番号 |
21K00374
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
丹治 愛 法政大学, 国際日本学研究所, 研究員 (90133686)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 田園主義的イングリッシュネス / 国民国家 / ナショナル・アイデンティティ / 産業革命 / 農業革命 / ヘリテージ文化 / 田園風景 / イギリス小説 |
研究実績の概要 |
本研究の主題は、19世紀初頭から20世紀末までの2世紀にわたる田園主義的イングリッシュネス――イングランドの本質的ナショナル・アイデンティティは、都市ではなく田園にこそあるという観念――の文化史である。これまでジェイン・オースティンの長編6作、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、ジョージ・エリオット『フロス河の水車場』、トマス・ハーディ『ダーバヴィル家のテス』、ウィリアム・モリス『ユートピアだより』、ジョージ・ギッシング『ヘンリー・ライクロフトの私記』、フォースター『ハワーズ・エンド』、D. H. ロレンス『白孔雀』、ヴァージニア・ウルフ『幕間』、カズオ・イシグロ『日の名残り』の作品を、この統一的主題のもとで研究するとともに、ロレンスをのぞく作家については論文のかたちで成果を発表してきた。 昨年度後半からは、以上の研究を一冊の本にまとめるための作業をはじめた。まず、この主題に関する歴史的背景(階級社会の変容、農業と工業の経済的発展と衰退、ナショナリズムの高揚のもとでのナショナル・アイデンティティの模索、ヘリテージ文化の発展のもとでの田園風景の発見と同時代の美術史との関連など)、および田園主義的イングリッシュネスに関するこれまでの代表的な研究の概要などをまとめ(全体のイントロダクションに相当する部分となる)、それと並行して、記述の重複を避け、ひとつの流れをつくりだすために、内容的にも論理的にも各論文の大幅な書き換えを進めてきた。それと同時に、各作品についての書誌をアップデートし、入手可能な範囲で最新の研究成果もとりいれることに努めた。その結果、オースティンからフォースターまでは一通りの作業を終えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に書いたとおり、とりあげる予定の10人の作家のうち、7人についてはほぼ最終的なかたちにまとめあげるところまで来ている。また、研究全体のコンテクストを説明するためのイントロダクションも書き終えることもできた。あとは3人の作家(ロレンス、ウルフ、イシグロ)を残すのみとなっている。ロレンスについては一から書かなければいけないが、今年度にはすべて書き終え、出版社と交渉できる段階にまでもっていく。
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今後の研究の推進方策 |
残された3人の作家について、まずはいちおう最後まで書き上げているウルフとイシグロの章の書き直しを進め、そのうえでロレンス『白孔雀』(当初「イングランド・マイ・イングランド」をとりあげようと考えていたが、そして実際に執筆を進めてもいたが、『白孔雀』のほうがおもしろいと考え、変更することにした)を一から書き進める。と同時に、コロナおよび個人的事情などで延期になっていた海外出張を実現させる。5月にUC, Berkeleyに行き、参照できていない文献の調査を行うとともに、9月にはイングランド南部をめぐりながら、それぞれの作家の博物館や多数の田園風景画を収蔵している美術館を訪ね、また、出版に必要となるさまざまな写真(農業革命やヘリテージ文化に関わるものなど)を撮影してくる予定である。来年の3月までには出版までこぎつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度と2022年度はコロナの影響によって、そして2023年度は他の個人的仕事によって、連合王国(イギリス)に出張することが不可能となった。健康の不安もあった。 今年度は、5月にアメリカ合衆国への出張、9月に連合王国への出張を計画中であり、航空チケットの予約も済ませている。出版社が見つかるかどうか不透明であるが、自分としてはライフ・ワークとして位置づけている仕事であり、年度内の成果の出版にむけて(あるいは出版の目処をつけることにむけて)可能なかぎり努力したい。
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