研究課題/領域番号 |
21K00377
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
麻生 享志 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80286434)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ベトナム戦争 / 難民文化 / 越境 / アジア系アメリカ文学 / 戦争とトラウマ |
研究実績の概要 |
1) アメリカ学会第55回年次大会分科会(2021年6月6日オンライン開催)において、「越境するベトナム―Viet Le のクイアな映像芸術」と題して、ベトナム系難民芸術家 Viet Le の映像芸術に関する招待発表を行った。アメリカと東南アジア諸国を往来しつつ制作に取り組む Le の諸作品を、戦争によるトラウマと越境をテーマに分析した。 2) アジア系アメリカ文学会第29回フォーラム(2021年9月19日オンラインにて実施)シンポジウム「アジア系アメリカ文学の新世紀―21世紀初頭のピューリッツァ賞・全米図書賞受賞作/ファイナリストを中心に」において、招待発表「ピューリッツァ賞への道―Viet Thanh Nguyen, The Sympathizerにおける「ヴェトナム」表象とアメリカ文学史」を行った。近年のアメリカ文壇におけるアジア系作家の躍進等を多角的に分析する本シンポジウムにおいて、ベトナム系難民作家としてはじめてピューリッツァ賞(文学部門)を受賞したヴィエト・タン・ウェンの作品『シンパサイザー』を取り上げ、ベトナム系作家、とりわけ難民作家がアメリカの文壇で評価されることの難しさと、そのための方法論を分析した。 3) ベトナム系難民作家 Lan Cao とその娘 Harlan Margaret Van Cao が2020年夏にペンギン社より出版した共作による自伝書 “Family in Six Tones: A Refugee Mother, an American Daughter” の翻訳・研究に着手した。1.5世代小説家のカオは、これまで私生活についてインタビュー等で多くを語ることはなかった。それゆえに本書で明かされる様々な伝記的事実は、ベトナム系難民作家が抱える過去とトラウマの関係を解き明かす上で重要なきっかけになると推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のなか渡航制限が続いたことから、本研究に本来ならば欠かせない海外でのフィールドワークや海外講師の招聘等は滞る状況が続いている。一方で、国内の学会活動はオンラインの活用もあり、次第に正常化しつつあり、シンポジウム等で招待発表の機会を得た。また、ベトナム難民が経てきた戦争と文化的越境の関係を主要課題とする本研究において、"Family in Six Tones" の翻訳・研究は重要な役割を果たす。かつてのように自由な研究環境が必ずしも保証されない現在、主要文献の翻訳といった地道な作業が、今後の本格的な研究再開に向けて重要な礎になる。以上のことから、コロナ禍での制限はあったものの、本研究は今後に向けて順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間に比べ落ち着きを見せている新型コロナウィルス感染状況ではあるが、本研究の主要課題である海外におけるフィールドワークの実施や海外講師の招聘は難しく、今後の見通しはやや不透明である。そのなかで、国内学会の対面実施が再開すれば、これまで積み上げてきた研究成果の公表に、より一層の進展があることと期待する。 一方、海外との行き来がかつてほど頻繁に行われていない現状を省みるならば、オンライン等を使っての情報収集、および意見交換や研究成果の発信を過年度以上に積極的に進めていく必要性があるだろう。SNS等のメディアの活用も視野に含め、本研究課題成果の公表手段を多角化する準備を整えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により海外でのフィールドワーク、および海外講師の招聘等が実施できなかったことから、当初予算を使い切ることができなかった。本年度においても 国内外の出張の機会は多くなく、海外講師の招聘見通しが立たないことから、オンライン使用の情報収集や意見交換、そして研究成果の公表を目的に、デジタル機器等の整備を中心に本年度予算を使用する予定である。
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