研究課題/領域番号 |
21K00379
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
白川 恵子 同志社大学, 文学部, 教授 (10388035)
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研究分担者 |
落合 明子 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (30264831)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 奴隷叛乱事件 / ガブリエル・プロッサー / デンマーク・ヴィージー / ナット・ターナー / 南部連合の英雄像撤廃とモニュメント建立の意義 / アンテベラム(南北戦争以前)期 / 歴史記述と文学表象 / 黒人史と博物館展示 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまで米文学・文化研究領域において、ほぼ注目されずにきた、19世紀初頭の南部における奴隷叛乱事件(ガブリエルの叛乱〔あるいはガブリエル・プロッサーの叛乱、ヴァージニア州リッチモンド、1800年〕とデンマーク・ヴィージーの叛乱〔サウス・カロライナ州チャールストン、1822年〕)につき、概要と背景の説明に加え、その文学的・文化的影響について考察することを目的としている。具体的には、①事件の歴史的背景と概要、事件後の影響の提示、②裁判記録の読解と当時の政治状況との連関、③小説および文学作品内の表象についての考察、④大衆のフォークロア形成と博物館等の記録/記憶提示とその効果、⑤これら奴隷制の残滓に直結するモニュメント建立と撤去、およびその功罪についての分析、解釈を行うものである。 ガブリエルの叛乱に関しては、1)前年度までに歴史的考察を行った研究論文を共著として出版したので、2023(令和5)年度は、主に、文学的考察に取り組み、講演を行い、学会誌に内容を掲載した。2)ナット・ターナーの叛乱に関する複数冊子の図版分析と第二次セミノール戦争との関連につき、口頭発表及び論文を出版した。3)奴隷制度とリンカン大統領に関する南部再建期ロマンスについて論文を共著として出版した。4)ヴィージーの叛乱について資料の読み込みを進め、口頭発表や論文執筆に向けての準備中である。5)ミシガン大学図書館(アナーバー)とC・H・ライト・アフリカ系アメリカ人歴史博物館(デトロイト)で、人種を巡る記憶表象に関する資料収集および黒人史関連の展示の視察を行った。6)本件研究に深く関わる研究書の翻訳にも取り組んだ。南部奴隷制下における女性主人の在り方を巡って、従来考えられていた補助的かつ副次的な役割ではなく、主体的奴隷主として法的に財産保有者となる事例研究を詳述した研究書で、2024年度中の刊行を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4年計画の研究3年目は、研究課題に掲げた2件の奴隷叛乱事件のうち、ガブリエルの叛乱の歴史的、文学的考察の成果をひととおり形にし、ヴィージーの叛乱考察に向けて着手し始めた。よって、課題研究自体についての考察は、順調である。ちなみに、2023年度(単年度)は、直接的かつ間接的に本件研究に関わる実質的成果として、共著出版1件、研究論文2件、口頭発表(講演含)3件、書評執筆3件の成果となった。 また、次年度(2024年度)に向けて、本研究課題で口頭発表3-4件が決定しており、後日、論文として発表することも予定している。また、前述の翻訳については2024年度中に刊行予定であることも付記しておく。 なお、本年度の成果は、未出版分もあり、下記に示すリストに留まるため、進捗状況の評価区分としては、上記の通りとしたが、ひと言つけ加えるならば、本件研究開始からの3年間(2021年度~2023年度)の成果(海外学会誌掲載を含む学術冊子論文4件、研究発表9件、共著書および共訳書出版4件、学会誌への書評掲載3件)は、かなり順調であると思われる。次年度も引き続き、成果が期待できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となる2024年度は、主にデンマーク・ヴィージーについての口頭発表と論文の執筆を行う。また本研究の遂行過程で、他の奴隷叛乱や奴隷制に関する事象、ひいては先住民駆逐制作との関連も見えてきたので、更なる研究内容の進化発展の下準備とすべく敷衍領域の模索も併せて行いたい。 本件研究に限らず言えることだが、研究内容が進捗する過程で、関連する別件プロジェクトが萌芽し、科研プロジェクトに基づく(あるいは発展的拡大を含む)小研究会の生成構築や、翻訳プロジェクトに発展してくことが多く、これは本来の科研研究の在り方として、大変好ましいことであると考えている。よって、関連敷衍領域においても、正式に認められ出版に至る企画の提案は、随時行う予定である なお、2023年度には、やっと海外渡航が忌憚なくできる状況となり、海外研究機関や博物館への調査にも行けたため、これらを論考としてまとめる作業も行う予定である。可能ならば最終年度には、海外学会での発表も視野にいれて準備をしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度まで、事実上、海外出張と海外発表ができなかったため、この分予定していた執行が繰り越しとなったことによる。またCovid-19の流行以降、国内学会も対面とオンラインとのハイブリッド開催が多かったため、総じて、出張費の拠出が予定よりも少なかった。 2024年度は最終年度なので、国内外を問わず、積極的に成果を発表したい。
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