研究課題/領域番号 |
21K00381
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
渡邉 真理子 専修大学, 文学部, 准教授 (70389394)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 冷戦期再考 / 終末 / サバイバル |
研究実績の概要 |
今年度、活字として発表された成果は、『図書新聞』の依頼によって寄稿したドン・デリーロの小説『沈黙』の書評である。このデリーロ最新作は、大停電と通信障害によって電話やオンラインでの意思伝達手段の一切を奪われてしまった近未来を舞台に、人間の言葉とそれをめぐる根源的な不安を描き出した「テクノ・スリラー」と名づけることができる小説である。この書評では、テクノロジーから遮断されることで自己の足場を失った登場人物たちの意思伝達に示される「空白」のモチーフに焦点を当て、本研究のテーマである「サバイバル」という概念を軸に考察を行った。 具体的には冷戦期の終わりに日本で発表された小松左京の『首都消失』を再読したうえでデリーロ作品との比較考察を行い、小松が謎の「巨大雲」に包まれた混乱状況にある首都を「外部」の視点から描いたのとは対照的に、デリーロの場合、登場人物およびテクストそれ自体の混乱を形式と内容の両方の側面から表現していることを明らかにした。これにより、冷戦終結後に世界に普及したインターネットの普及が現代人のサバイバルと存在をめぐる不安の諸相をますます複雑にしたことを再確認することができた。それとともに、冷戦期再考というテーマをテクノロジーの側面から考えてみることの重要性を認識することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
所属機関変更および研究拠点の変化に伴い、今年度はまず研究活動に必要なコンピューターなどの環境の整備に時間を必要とした。新型コロナウィルスの影響で国内外の調査出張が思うように実施できないことに加え、課題遂行のための研究会を開催できなかった。これらの結果、当初の研究計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
調査出張と研究会の対面開催を徐々に再開する見込みである。今年度は、現在寄稿依頼を受けて執筆中であるアジア系アメリカ作家カレン・テイ・ヤマシタのポスト冷戦期小説論を2022年夏に完成させる予定である。また、ティム・オブライエン小説群における冷戦サバイバルに関しても初期から現在までを見渡した概論的な文章を発表すべく、すでに準備済である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染状況が悪化したため、国内外への調査出張に制約が生じた。それとともに、所属機関の変更に伴う居住地変更と研究協力者のオンライン環境が整っていないこと等から、研究会を開催することができなかった。研究会については現在感染状況を考慮しつつ対面再開に向けて調整を行っている。従って、次年度の使用計画としては出張旅費、貸会議室の使用料、資料の購入に充てる予定である。
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