研究課題/領域番号 |
21K00385
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
金井 嘉彦 一橋大学, 大学院法学研究科, 特任教授 (60169539)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宗教モダニズム / ジョージ・ティレル / シュトラウス / ルナン / イエス伝 / イエス小説 / ラショナリズム / 聖書解釈学 |
研究実績の概要 |
宗教モダニズムは、狭義には19世紀末から20世紀初頭にかけて、カトリックおよびプロテスタント教会内で起こった、教義および教会体制の刷新を求める運動と言えるが、その意義を把握するためには、その背景にある、聖書のあり方をめぐる長い議論を視野に置く必要がでてきた。2021年度は、宗教モダニズムのバックボーンとなる聖書解釈の歴史およびラショナリズムの流れを確認した。具体的には、イエスの生を扱う福音書を歴史的批判の俎上にのせて、聖書解釈上の問題点を整理する流れの中で、シュトラウスの『イエス伝』を始めとして、ルナンの『イエスの生涯』を経て、ファラーやギーキー等に至る数多くの「イエス伝」が書かれた歴史を原典にあたって確認した。これにより、19世紀が「イエス伝」の時代と呼ぶべき時代になっていたことが確認できた。数多くの「イエス伝」からはより想像力を駆使してイエスの生を描く「イエス小説」と呼ぶべきジャンルが派生的に出てくるのは歴史的必然で、これらについても原典をあたった。これと併せて、ラショナリストによる聖書批判を読むことにより、19世紀末から宗教モダニズトという形になって現われてくる問題のありかと背景を具体的に理解することができた。これによって得られた知見を論文「二つの「スキュラとカリュブディス」と、〈イエス伝〉〈イエス小説〉が語るイエスにならいてシェイクスピアを語るスティーヴン」にまとめ、『言語文化』第58巻に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
19世紀において数多く出された「イエス伝」「イエス小説」の流れを、原典を読みつつ押さえることができたことで、19世紀において問題となっていた聖書理解が実践に移される現場を見ることができた。これによって19世紀末からの宗教モダニズムが単に一時的な運動なのではなく、広く見れば、宗教改革、さらに広く見渡すならば、聖書が編まれたときからの、キリスト教の歴史にある根本的な問題とつながることが確認できた。その知見をジョイスの『ユリシーズ』第九挿話に現れる「イエスの歴史性」という言葉の背景として、論文「二つの「スキュラとカリュブディス」と,〈イエス伝〉〈イエス小説〉が語るイエスにならいてシェイクスピアを語るスティーヴン」にまとめ、『言語文化』第58巻にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、宗教モダニズムという形で宗教界で提起された問題が、文学・芸術の分野がどのように関連し合い、呼応するかを見ていきたい。具体的には2022年度はジョイスの作品と宗教モダニズムがどのように関わり、どのような形で作品上に現れてくるかを見ていく。2023年度は作品を当時書かれたいわゆるマイナーな作品にまで広げ、宗教モダニズムと文学との関係をさらに深く、広く見ていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍購入をするにあたり、年度末会計処理の都合上5,685円の残額が出た。こちらについては2022年度に繰り入れて、書籍購入に充てる。
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