本研究のテーマは、ラフカディオ・ハーン等、明治のジャパノロジストによって英語化された、日本の伝説・物語などが、日本に逆輸入され、その近代西洋のナラティブと、オリエンタリズムに由来する他界・異文化描写が、日本の語り手たちに影響を与え、「民話」という、新しい文芸の創出に寄与したことを実証的に後付けることである。 より具体的に言えば、まずラフカディオ・ハーン等、明治期の英米系ジャパノロジストよって英語化された、日本の伝説・物語などが、そこに含まれるリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブと、オリエンタリズムに由来する他界・異文化描写により、日本の語り手たちに影響を与え、「民話」と呼ばれる、新しい地方の口承文芸の創出に寄与したのだが、そうして誕生した近代日本の「民話」は、戦後、禁圧された日本のナショナリズム・国家神話に代わる、安全な「懐旧」「愛郷」の物語として歓迎されたのだが、その一方で、木下順二などの民話作家の活躍により、活字から舞台、テレビアニメへとメディアを超えて拡散していくなかで、戦後の「民話」は、次第に「都市」・「資本主義」的価値観への批判的傾向を強めていった。木下の近代日本批判をもっとも強く受け継いだ、松谷みよ子の「現代民話考」や、取材対象を戦場体験に拡大した辺見じゅんの「戦記文学」の誕生は、木下の創始した近代日本批判の「民話」の最終的到達点であり、そこに、日本を語る英語系オリエンタリズムに内在していた批判的視座が継承されていることの証しでもある。 上記研究テーマのまとめとして、本年度、2023年10月、『「雪女」、百年の伝承―辺見じゅん・木下順二・鈴木サツ・松谷みよ子・そしてハーン』を、幻戯書房から256頁の単著・単行本として刊行した。
|