研究課題/領域番号 |
21K00389
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
芦津 かおり 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (30340425)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シェイクスピア / 悲劇 / 翻訳 / リア王 / りゅーとぴあ / 上演 / 異文化 / 翻案 |
研究実績の概要 |
国際プロジェクト(ASIA)の一環として、劇団りゅーとぴあによる舞台『リア王/影法師』(2004年)の研究を行ってきたが、今年度は特にその上演における言語的・文化的「翻訳」について考察を進め、研究発表と論文執筆を行った。 本公演は、演出家の栗田芳宏が能楽堂の構造や能の様式を大いに生かしながら、21世紀日本の観客にシェイクスピア『リア王』をいわば「翻訳」的に提示したものである。本研究では次のジェンダー表象・異文化表象という2つの観点から考察を行った。 主演の白石加代子をはじめキャストは全員女性である。さらに配役面でもリアと道化以外の男性登場人物はカットされ、父娘のドラマに焦点が絞られる。このような女性中心の布陣にはジェンダーに関する強い主張を読み取りたくなるが、役者らの用いる台詞(松岡和子訳をベースとする)にも、演技における身体言語にもジェンダーに関するこだわりは見えてこない。しかし、興味深いことにそれがかえって観客の意識をそちらへ向け、結果として我々は、女性演者の身体と演じられる男性役との関係や、二項対立的に捉えがちなジェンダーの概念、その上演可能性についての再考を迫られるのである。 さらに異文化表象という点においては、本公演に採り入れられている夢幻能の枠組みや「序破急」のリズム、小道具類(蔓桶、扇子など)の使用を丁寧に分析するとともに、それ以外の演技様式が巧みに取り交ぜられている点も示した。結論としては、伝統演劇と新劇、それ以降の演技様式が併存する雑種的な日本演劇に慣れた観客のためにシェイクスピア悲劇がたくみに「翻訳」されている点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画とは異なる作品を取り上げることにはなっているが、もともと設定していたテーマに即した研究が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたとおり、翻案や翻訳を分析することにより、テキストに言語的・文化的な「変形」「屈折」が加わるということを明らかにしてゆきたい。次は、黒澤明の映画におけるシェイクスピアテキストの「翻訳」を考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張に行けなかったことが原因である。次年度はなんとか日程調整して実現したい。
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