研究課題/領域番号 |
21K00392
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研究機関 | 山形県立保健医療大学 |
研究代表者 |
梶 理和子 山形県立保健医療大学, 保健医療学部, 准教授 (60299790)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 女性作家 / 美的感覚 / 近代商業社会 / 公的利益 / 植民地 |
研究実績の概要 |
長い18世紀の近代商業社会と美的感覚の関係性を検証する本研究課題の初年度においては、1660年(イングランド王政復古)と1688年(一般に名誉革命として知られる)の意義、17世紀後半から始まるイングランドの政治的・宗教的体制の変動、それらを背景とする人々のアイデンティティやモラル、価値観、美的感覚の揺らぎと多様化に関わる歴史的状況、美学的・道徳的思想基盤の整理をおこなった。その一方で、イングランドが領土や資源を求めて海外に拡張していく過程で現れる新興の資本や権力、商品、それらにまつわる欲望が、価値や美に対する感覚を変容させる過程を主に17世紀後半の演劇作品に探った。 具体的には、王政復古以降、顕在化する宗教的(カトリック/プロテスタント)、政治的(国王中心/議会中心)、階級的(家系・土地所有/経営・財力)状況の変化を、アフラ・ベーン(1640?-89)の2つの時期の作品に探った。すなわち、国王と議会の政治的対立が深刻化していく1670年代に上演された最初期の3作品と、1688年前後に書かれた晩年の作品を検証することで、当時の人々の価値判断、美的感覚、そしてその基盤となる感受性の差異を確認し、これらの変容の一端を明らかにした。 さらに、王政復古以降に改作されたシェイクスピア作品(ネイハム・テイトやコリー・シバーら男性作家による)を原作と比較検証することで、政治的・宗教的・国際的状況の変化、商業社会の台頭とそれに伴う感受性の変容(の萌芽)を確認した。男性作家による女性表象を踏まえ、ベーンの作品に窺える女性の欲望・情動、チャールズ2世の王妃や愛人たちの私的・公的身体を想起させる表象を再考することで、より多様に、より広範にテーマを深化することができる課題や方向性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
王政復古期の宗教・政治・商業的状況という観点から、アフラ・ベーンの作品を再検証することで、私的欲望と公的利益、美意識や感受性等の(関係性の)変容の一端を明らかにすることができたものの、新型コロナの流行に起因するいくつかの状況によって、計画していた国内外でのリサーチをおこなうことができなかった。そのために、宗教・政治・商業的状況の変動の誘因、影響を国王、(カトリック国出身の)王妃や宮廷の女性たちの私的/公的身体性を考察するための一次・二次資料がほとんど収集できなかった。また、感受性やモラルと消費社会との関係性を分析するための資料収集も進んでおらず、ロンドンの質的・量的な変化の起点を王政復古期に辿り、それが感受性、美的感覚、道徳的判断に関わる問題とどのように結びつき、いかに18世紀の思想(ヒュームやスミス等)の基盤となるかを考察することなどが次年度の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の計画としては、新興の人々の力と欲望、感受性、美的・道徳的感覚の変容を探るために、女性表象および女性による表現に重点を置き、以下の2つの手順で研究を進める予定である。(1) 女性の身体性・精神性と欲望・情動に関する具体的なテクスト分析:アフラ・ベーンやデラリヴィエール・マンリー、スザンナ・セントリーヴァ、エリザベス・グリフィス等、「長い18世紀」の女性作家の演劇・散文作品を比較、分析することで、女性(を取り巻く環境の)表象という観点から、女性の身体的・精神的欲望と美的・道徳的感性と判断力の変化を追う。(2) 女性の欲望・情動と作品の形式に関する考察:女性作家が演劇、散文といった創作のジャンルを変える意味を再考するために、王政復古期イングランドが経験する政治的、宗教的動乱、経済的危機や発展、社会的変動等との関連から、文学形式と情動の表象([不]可能性)との関係性を検証する。 なお、本年度も新型コロナによる状況次第では、(初年度にほとんど実行できなかった分を含めて)調査研究、資料収集をおこなうことが困難となることも予想される。とりわけ、本研究課題に必要な海外リサーチについては、国内外の状況を鑑みて計画する、あるいは研究期間の延長を視野に入れつつ対応する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの流行、感染対策等による制限等によって、計画していた国内外での調査研究、資料収集、学会参加等をおこなうことができなかったことで、予定していた海外渡航費、リサーチおよび資料購入等にかかる費用が支出されなかったため(次年度の海外リサーチに計画変更となったため)。
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