研究課題/領域番号 |
21K00401
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
阪本 久美子 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50319240)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シェイクスピア上演 / 現象学 / 観客研究 / フェミニズム / 異性配役 |
研究実績の概要 |
初年度は、現象学の一次資料(メルロ=ポンティによる著書など)、現象学の影響の元に執筆された方法論や実践に関する論文、現象学の文学・演劇学への影響を論じた論文、シェイクスピア批評とも関連があると思われる論文など、幅広く文献調査を行うことから始めた。上演の実地調査は、新型コロナ感染症の影響により国内に限られたが、2021年度中盤まではストリーミングによる海外の上演の視聴も可能であったため、現地に出向かずに一部の上演の調査を行った。他には、研究対象となる上演を録画したDVDを視聴して、特殊な配役も含めた上演や観客への負荷が大きいと思われる配役の分析を進めた。 7月の第11回シェイクスピア世界会議はオンライン開催となったが、プレナリー・セッションのラウンドテーブルGender and Sexuality: The State of the Fieldsに、5人のプレゼンターの一人として参加した。現象学的な上演批評とフェミニズムについて論じて、テクスト重視のアプローチが多い中で新鮮であったという好意的な感想をいただいた。年度の下半期には、パルコ劇場で上演されたオールフィメイルの『ジュリアス・シーザー』のプログラムに、異性配役と観客に関する論考を寄稿した。 下半期より、文学および歴史・文化上の異性装を多角的に読み解こうという、日本文学者とのプロジェクトに参加している。現代日本のサブカルチャーに息づく異性装の原点となる歴史上の異性装、多様化するジェンダーとフィクションの世界でのジェンダー表象など、本研究と関連した討論を行っている。また、Asian Shakespeare Intercultural Archive (A|S|I|A)に、主席エディターとして参加し、Asian Intercultural Digital Archives (AIDA)によるワークショップにも出席した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、資料収集や文献調査に多くの時間が費やされることを想定していたため、特に現象学や観客反応、身体論など幅広い文献調査が行えたという点では、研究は順調に進められている。 しかしながら、国内でも2021年度上半期は上演数が減少しており、また海外への調査に行くことが叶わない状況であり、研究対象とする上演の調査は、記録映像(DVDやストリーミング)に限られたという点では、多少の遅れがあったと考える。 一方で、日本文学者とのプロジェクトへの参加により、日本文化および歴史、さらには現代のサブカルチャーの中の異性装に関して、より幅広い観点から見直す機会を得るという収穫があった。また、国際プロジェクトであるAIDAへの参加も、新型コロナ感染症に起因する中断があったが、2021年度下半期には再開された。 以上のことから、実際の上演の調査の面で、遅れが発生していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、5月に開催される第94回日本英文学会全国大会第1部門シンポジア(英文学:詩・演劇)「シェイクスピアとフェミニスト的受容」の司会兼講師として登壇する。フェミニスト現象学とシェイクスピア批評の可能性を論じる予定である。 同時に、Asian Shakespeare Intercultural Archive (A|S|I|A)のプロジェクトのために、オールメイル上演を専門とする劇団「スタジオライフ」による、シェイクスピア喜劇『十二夜』の注釈および上演と劇団を紹介する文章(共に日本における異性装上演、観客などに関する情報及び論述を含む)を完成させる。 日本文学者による文学および歴史・文化上の異性装に関するプロジェクトに基づいて出版される、集英社インターナショナル新書に、「シェイクスピア劇における異性装の当時と現在」というテーマで1章を寄稿する。 上記以外は、文献調査の継続、国内における上演調査をさらに進める予定である。特に、国内における調査は、国外での調査の再開目処がつかないため、特に重点的に進めたいと考えている。また、日本文学者とのプロジェクト参加を通して興味が持たれた、そして現代日本における異性配役上演との関連性を調査する必要があると感じた、日本文学、文化、歴史における異性装への知見を深めるために、国内の文献の調査を行いたい。 以上が上半期の予定であるが、下半期には特定の演劇作品を現象学から論じる論文、またはフェミニスト現象学からの異性配役上演の分析を行った論文を、国内外の学会にて口頭発表する機会を得るつもりである。また、哲学としての現象学自体を研究する学会、フェミニスト現象学の方法論を扱った学会などに積極的に参加し、演劇作品の現象学的研究の可能性をさらに探って行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症に起因する、主に次の2つの理由で、使用計画に計上した費用が発生しなかったため。 (1)プレナリー・セッションのスピーカーとして参加予定であった、2021年7月にシンガポールで開催された第11回世界シェイクスピア会議が、オンライン開催となったため、旅費が発生しなかった、(2)勤務先大学では、海外出張も含めた海外渡航が禁止されたため、予定していたイギリスにおける上演調査および資料収集が行えなかった。 次年度より海外への渡航も可能になると考えられるため、まずは初年度に実施できなかった、イギリスへの上演調査および資料収集を、授業や校務などとの兼ね合いから可能であれば、複数回実施したい。国際学会に関しては、2022年度上半期はオンライン開催であるが、下半期には徐々に対面開催に切り替わると予想される。したがって、冬以降の国際学会にて研究発表の機会を得たいと考える。 また、現在国内でのシェイクスピアを含む演劇作品の上演回数も増加し、海外からの招聘公演も含まれるようになった。3年ぶりに数々の演劇祭も再開されている。したがって、次年度には、国内における上演視察や演劇祭視察のための出張も、昨年度より多く実施する。
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