2023年度はこれまでの研究の総括として、近年活発な議論がされるようになった翻訳理論研究の文献整理をし、その知見をもとに、19世紀のトランスアトランティックな文化交流に影響を受けたエマソンとソローの外国文学受容と、外国文学の翻訳行為を通した独自の自然観の形成について検討した。その成果として、ヘンリー・D・ソローがギリシア・ラテン古典に傾倒し、ギリシア・ラテン古典を翻訳していた事実に注目し、ソローの翻訳行為と自然へのかかわりを検討した論文「『自分のイタカの海辺に座る』―ソローの作品に見る古典と翻訳」が、新英米文学会会誌『New Perspective』(2023年9月)に掲載された。また、日本ソロー学会全国のシンポジウム発表を基にした論文「ナサニエル・ホーソーンの戦後処理-ポストべラム文芸批評空間におけるホーソーンとソローの受容」が、日本ソロー学会会誌『ヘンリー・ソロー研究論集』(2024年1月)に所収された。その他最終年度の研究成果としては、日本ナサニエル・ホーソーン協会中部支部例会において「エマソンとソローの作品に見る自然と翻訳」を発表し、エマソンの初期作品において見られるエマソンの「自然」と「言語」への関心について取り上げ、「自然」を「翻訳」することが自然科学者の役割であるとしたエマソンが、自然をどのように翻訳しようとしたか、またその「翻訳」行為とはどのような分析ができるのかを検討した。この考察は、近々に論文にまとめ発表する予定である。
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