研究課題/領域番号 |
21K00408
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
中村 寿 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (40733308)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / ユダヤ主義 / マックス・ブロート / 『自衛-独立ユダヤ週刊新聞』 / フランツ・カフカ |
研究実績の概要 |
本研究課題「ユダヤ主義とドイツ文学―『自衛―独立ユダヤ週刊新聞』とマックス・ブロートを中心に」は、第一次世界大戦期のプラハで出版されていたドイツ語の新聞雑誌・文学作品を主たる読解・分析の対象とし、ジャーナリズムと文学の相互作用を明らかにすることを目的としている。その際、それらの著者の多くがユダヤ系であったことも重要である。二重帝国領の中・東欧で活動したドイツ語作家は、19世紀のドイツ・ロマン主義、ビーダーマイアーの後継者として、ナショナリズム、ユダヤ人の同一性の問題に深く関わった。 2021年度は、ブロートの小説『ユダヤ人の女たち』(1911)の翻訳を進めた。マックス・ブロート(1884~1968)はフランツ・カフカの友人・遺稿編纂者として知られる。ゆえに、ブロートを評価するにあたっては、カフカの評価者としての功績に関心が集中し、翻訳はカフカの伝記『フランツ・カフカ』(辻ひかる他 訳、1972)しか存在していない。報告者は昨年度末から翻訳を進め、その過程を所属大学の紀要論文として報告した。 『ユダヤ人の女たち』の登場人物はほぼ全員がユダヤ人である。彼らはドイツ人とほぼ同一化していて、ドイツ人とチェコ人による民族対立が描かれる際、登場人物の一人はドイツ人の前衛としてその民族運動に参加する。主人公は同胞のドイツ民族主義になじむことができない。このような主人公の姿勢からは、ドイツ系ユダヤ人にはドイツ人とは異なるユダヤ人に独自のものがあるという、作家ブロートの視座の萌芽を指摘することができる。主人公の精神遍歴は作家のそれとも重なっている。ブロートはこの小説を通じて、ユダヤ人の民族主義(=シオニズム)に関わるようになった。研究を通じて、ブロートがユダヤ民族主義に近づいていくまでの過程の一部を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『ユダヤ人の女たち』(1911)の翻訳に時間がかかっている。2022年5月現在、全体のうち約80%が完成済である。夏季休業中に訳稿を完成させ、2022年度末までの訳書刊行を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
現在、マイクロフィルムの解読に必要な機材がそろっていない状況である。そのため、小説の翻訳など、比較的手にいれやすい文献をもとに研究活動を行っている。感染予防措置が緩和され次第、フィルムリーダーを購入し、歴史文献の読解を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
夏季休業中にマイクロフィルムビューワを購入する予定であったが、他県からの来客の自粛が求められていたため、2021年度中のビューワ購入は断念した。感染予防措置が緩和され次第、設置業者を招聘し、研究室内にビューワを設置する。
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