研究課題/領域番号 |
21K00413
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
津森 圭一 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (70722908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プルースト / ウェルギリウス / オウィディウス / ギリシア神話 / ロクス・アモエヌス |
研究実績の概要 |
マルセル・プルーストをはじめ,フランス近代作家がいかなる古典文学教養を獲得し,それを創作に取り入れているか,その構造を明らかにするうえでの第一段階として,プルーストの作品におけるギリシア・ローマ神話への直接的な言及箇所を分析する作業を開始した。 研究成果としては,『プルーストと芸術』(水声社)に寄稿した論考「『失われた時を求めて』におけるパリの風景――暗示とイメージ連鎖の場としての都市公園――」がある。 この論考では,マルセル・プルーストの古典教養の現れの一例として,『失われた時を求めて』における,パリのシャンゼリゼ公園およびブーローニュの森を舞台とする場面が,ウェルギリウスの『アエネイス』やオウィディウス『変身物語』の内容を踏まえた描写になっていることに着目した。プルーストの描くパリは,一見,主人公や登場人物の繰り広げるドラマの背景でしかないと見受けられる。しかし作家はパリの都市景観を描くうえで,読者がさまざまな連想を行えるような巧みな仕掛けを講じているのである。その仕掛けは,ギリシア・ローマの神話の神々や英雄が経験する恋慕や苦悩や悔恨,絶望といったものである。 とりわけシャンゼリゼ公園,ブーローニュの森,ビュット=ショーモン公園へと向けられた視線は,人間の情念の変化や時間の経過がもたらす老いや死という現実を,アナロジーによって喚起する。 今後の研究の展開としては,プルーストが,学校時代より,いかにしてギリシア・ローマ神話の体系を学んだかを確認したうえで,その知識を作品中に織り込んでいるのかを解明すし,2022年度中に日本語論文としてまとめることを見込んでいる。とりわけ作家が『失われた時を求めて』において,神話の神々や英雄を自在に援用することで,登場人物の描写に奥行を持たせる点に着目している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の成果の一部を,シンポジウムでの発表するとともに,それに基づく論文を2022年4月に発表することができたことから,おおむね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降の研究の推進方策として,まずは,『失われた時を求めて』のテクストの行間にある,共感や皮肉,社会制度への批判や,理想的な教養のあり方を解読する作業を行う。このようなアプローチにおいては,プルーストが,たとえばギリシア神話の神々のイメージを,時に明示せず示唆するにとどめている点,また,既存のイメージから変貌させ,諧謔的に扱っている点などを指摘した,Marie Miguet-Ollagnier, La Mythologie de Marcel Proust(Les Belles-Lettres, 1982)の再読・検討が必要であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献資料調査および入手のためにフランスに渡航する予定であったが,感染症拡大の影響により渡航を断念し,滞在費等の支出がなかったため。
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