研究実績の概要 |
マルセル・プルーストにおける古典文学受容について研究を進めた。令和5年度も前年度に引き続き、ギリシア・ローマ神話が、『失われた時を求めて』にいかなる影響を及ぼしたかを探求し、以下2点の研究論文にその成果を取り入れた。 1. "Jardins et parcs parisiens dans A la recherche du temps perdu", Proust, la litterature et les arts, H. Champion, 2023, pp. 207-218. 本研究論文においては、プーストの描く都市パリの緑地空間の描写の背後には、オウィディウスやウェルギリウスの作品で叙述される古代ギリシア・ローマの神話的イメージが意識的に用いられていることを明らかにした。 2.「プルーストとヴェルサイユ庭園」『STELLA』42号, 199-221頁。 本研究論文では、プルーストは、評論や小説作品において、ヴェルサイユ宮殿の庭園にある、古代ギリシア・ローマの神々やニンフをモチーフにした彫刻に着目する。とくにこれらの彫刻で用いられる鉛が醸し出す「古色」が、作品の時間的な厚みを表現するうえで重要な比喩として用いられていることを明らかにした。 また、現在準備中の著作において、マルセル・プルースト『ジャン・サントゥイユ』や『スワン家のほうへ』に豊富に存在する田園や庭園の描写に認められる「ロクス・アモエヌス」の伝統に着目している。従来,絵画や建築との関連で論じられることが多かったこれらの描写を,テオクリトスやウェルギリウスなどの作品を模範とした「ロクス・アモエヌス」の伝統を踏まえながら検討を続けている。アンドレ・ジッドやポール・ヴァレリーなど、プルースト同時代の作家の動向にも目を向け,近代フランスにおけるパストラルの受容のあり方についてひとつの解釈を示すことを目標としている。
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