研究課題/領域番号 |
21K00418
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
古永 真一 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (00706765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バンド・デシネ / フランス文学 / マンガ |
研究実績の概要 |
本研究では、1960年代以降に自律した表現として社会的に認知されてゆくバンド・デシネ (フランス語圏のマンガ)に関する理論において、バンド・デシネ作品の潮流の変化が訪れる 1990年代以降、映画や小説などの他分野とのアダプテーション(翻案)がどのように創作されていったのか、という問題の解明に着手した。またそうしたアダプテーションがどのように研究されてきたのか、これからどのような展望や深化が望めるのかという問題も併せて考察した。デジタル・テクノロジーによって各メディアがさまざまな変化を遂げてグローバルに交錯してゆく現況にあって、換言すれば、創作と市場とテクノロジーがジャンルという境界を曖昧かつ複雑にしてゆく現況にあって、このような観点からバンド・デシネを研究する価値は十分にあるということを再認識するに至った。
具体的には、バンド・デシネのアダプテーション研究の最新の動向を把握しつつ、アダプテーシ ョン産業と呼ばれるような経済的な視点からの研究を検討した。次に作品の生成や変遷を実証的に辿りなおすことで認識しうるアダプテーション性とでも言うべき特質に関する研究を調査した。主にバンド・デシネに関連するアダプテーションの制作過程における難点や障害、成功や失敗の判断基準について、バンド・デシネだけでなく日本のマンガの例も含めていくつかの具体的な作品を取り上げながら考察した。さらには、原作への忠実性に拘泥することなく、アダプテーションをひとつの「解釈」の 形態として捉える研究についても調査を試みた。また、アルバムや雑誌といった出版形態の規範化とそこから生じる問題についても考察を開始し、現在調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、アダプテーションの展開を視点として、バンド・デシネの特徴を明らか にすることである。 以下のテーマを検討する。 (1) これまでの研究でバンド・デシネはどのように捉えられてきたか。 (2) アダプテーションのこれまでの展開からみたバンド・デシネの特徴は何か。 (3) バンド・デシネの今後の展開は何か。 (4) アダプテーションという点で日本のマンガと比較した場合、共通点と相違点は何か。現時点では、これらの4項目について、おおむね想定どおりの文献の取得や調査を進めることができている。
具体的に記すならば、1980年代から、バンド・デシネの「アルバム」はバンド・デシネの中心的な形態となる。そこにフランス・ベルギーにおける「第九芸術」が表すかなり特異な文化的特徴の一つを見ることができる。雑誌から「本」への変化は、「ロマン・グラフィック」として定着するが、それはアングロサクソンの「グラフィック・ノヴェル」というカテゴリーとの混同を招く結果となった。両者の違いを明らかにすることも大事だが、いずれにせよ、このような本が中心となることを調査してみて判明したのは、バンド・デシネの作家が雑誌からの収入を絶たれることになるという経済的な問題を引き起こしたことである。今後はアルバムがバンド・デシネの出版形態の中心となることで作品やこの業界において生じた変化についてさらに調査を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
当該テーマの研究書や論文に関する調査や読解をさらにつづける。5月末をめどに当該テーマに関する論考を発表する予定なので、バンド・デシネの本や雑誌という物質的なメディア という観点から、これまでのバンド・デシネの歴史で見逃されてきた編集者の存在や、出版社が保存している資料や書簡、あまり注目を浴びてこなかった小冊子のフォーマットの作品 や雑誌についても調査する予定である。さらには1960代から2020年代を通じて代表的なバンド・デシネの雑誌や論文集、作品についても可能なかぎり研究上重要なものについて入手に 努めたい。まずはすでに入手した資料に関して、研究計画に鑑みて優先順位をつけながら読み込むことに傾注したいと考えている。さらには、デジタルメディアがバンド・デシネに及ぼす影響について考察するため、関連する文献の調査を手がける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍でさまざまな活動制限があり、とりわけ調査旅行については自粛せざるを得なかった。結果的に予算計画に影響が生じただめ次年度使用額が生じた。
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