研究課題/領域番号 |
21K00418
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
古永 真一 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (00706765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バンド・デシネ / マンガ |
研究実績の概要 |
バンド・デシネと呼ばれるフランス語圏のマンガに関する理論的な成果の調査、とりわけアダプテーションと呼ばれる異なるメディアにまたがるマンガ表現に関する研究に着目し、必要な文献の入手に努めた。フランス語、英語、日本語の文献を入手し、優先順位をつけたうえで精読に努めた。具体的な研究実績としては、バンド・デシネに顕著な、日本のマンガとは異なるフォーマット(ハードカバー、フルカラー、50頁以下のページ数)が「伝統」として創られてゆく過程を実証的な観点から考察し、今後のデジタル化の趨勢の予測とともに「バンド・デシネのアルバムの規範化をめぐる問題」というタイトルて『マンガ探求13講』という書物に寄稿した(小山昌宏・玉川博章・小池隆太編『マンガ探求13講』、水声社、2022年(「バンド・デシネのアルバムの規範化をめぐる問題」、279-309頁))。また、アメコミと呼ばれるアメリカのマンガ文化にも注目し、アダプテーションの観点からとりわけスーパーヒーローの実写映画の歴史や昨今の作風の変化を調査し、マンガにおける善と悪をテーマとする学部のオムニバスの授業内容に反映させるようにまとめた。アメリカにおける9.11の同時多発テロ以降のスーパーヒーローものの流行、人種や性差といった多様性を意識した作品の登場と個々の作品の特異性や今後の可能性の吟味、日本のマンガにおける勧善懲悪のスタイルの発展と特異性(永井豪の『デビルマン』や諫山創の『進撃の巨人』との比較)を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画にもとづいて必要な文献を選定し、入手するという作業を行った。英語、仏語、日本語の文献を取り寄せ、優先順位をつけたうえでノートをとってデータベース化した。本年度は日本語文献と仏語文献に加え、英語文献にも目を配り、それらの選定と入手と読解を重点的に行った。フランスの文化闘争の内実にせまるべく、バンド・デシネの伝統的なフォーマットとアングレーム国際マンガ祭のようなイベントとの相互関係、コミック・コード的な規制と検閲の実態の調査、デジタル化やネット社会におけるマンガのメディア的特性の変容を視野に入れたアダプテーション理論の成果の調査に努めた。この夏には勤務校のオープン・ユニバーシティと呼ばれる社会人を含めた公開講義において、フランスにおけるマンガとアニメーションの紹介を担当することもあり、あらためてフランスのマンガ・アニメの歴史や特徴について再考する作業にも着手した。こうした対外授業の成果も、バンド・デシネのアダプテーション理論に関する本研究に活用していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず5月末に実施される学部のオムニバス授業において「マンガにおける善と悪」に関する講義の準備を進める。アダプテーションという観点も含めたアメコミの実写映画(「バットマン」「Xメン」など)の最近の動向を振り返り、日本のマンガ(「デビルマン」や「進撃の巨人」)との比較を通じてマンガにおける善と悪の問題が、実は複雑にして示唆に富むテーマであることを明らかにする。次に夏休み中に開催されるオープン・ユニバーシティの講座でフランスのマンガ・アニメを解説する予定なので、バンド・デシネの特質や魅力について再考する。夏休み中には、本研究の成果報告の一部をなすことを目指して論文執筆のための構想を練り、具体的な準備に着手する。秋以降に執筆作業に取り組み、今年度末に発表する予定である。その際、あらためてアダプテーションという問題を、単なるマンガと映画あるいはマンガと文学の関係に固定するのではなく、バンド・デシネにおいて考えうる特異性や考察の掘り下げに留意するように努めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による移動制限などを背景とした研究の進展を損なう要因がひき続き存在したため、さらには学部の入試を担当する負担の重い委員を務めることになったために思うような海外における調査を行うことができなかった。そのため旅費については計画どおり活用することかできなかったが、2023年5月以降はコロナ禍も社会状況が変わってきており、研究の進展についても改善が期待できると考えている。
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