バンド・デシネと呼ばれるフランス語圏のマンガに関する理論的な成果の調査、とりわけアダプテーションと呼ばれる異なるメディアにまたがるマンガ表現に関する研究に着目し、必要な文献の入手に努めた。フランス語、英語、日本語の文献を入手し、優先順位をつけたうえで精読に努めた。具体的な研究実績としては、バンド・デシネに顕著な、日本のマンガとは異なるフォーマット(ハードカバー、フルカラー、50頁以下のページ数)が「伝統」として創られてゆく過程を実証的な観点から考察し、今後のデジタル化の趨勢の予測とともに「バンド・デシネのアルバムの規範化をめぐる問題」というタイトルで『マンガ探求13講』という書物に寄稿した(小山昌宏・玉川博章・小池隆太編『マンガ探求13講』、水声社、2022年(「バンド・デシネのアルバムの規範化をめぐる問題」、279-309頁)。また、アメコミと呼ばれるアメリカのマンガ文化にも注目し、とりわけスーパーヒーローの実写映画の歴史や昨今の作風の変化を調査し、マンガにおける善と悪をテーマとする学部のオムニバスの授業内容に反映させるようにまとめた。
最終年度には、研究実施計画にもとづいて必要な文献を選定し、入手するという作業を続けた。英語、仏語、日本語の文献を取り寄せ、優先順位をつけたうえでノートをとってデータベース化した。本年度は日本語文献と仏語文献に加え、英語文献にも目を配り、それらの選定と入手と読解を重点的に行った。フランスのバンド・デシネの伝統的なフォーマットとアングレーム国際マンガ祭のようなイベントとの相互関係、コミック・コード的な規制と検閲の実態の調査、デジタル化やネット社会におけるマンガのメディア的特性の変容を視野に入れたアダプテーション理論の成果の調査に努めた。
|