研究課題/領域番号 |
21K00420
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
Pekar Thomas 学習院大学, 文学部, 教授 (70337905)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トランジット移住 / 亡命文学 / 亡命 / 文化接触 / 移民文学 / 移民 / 東アジア受容 / 記憶政治 |
研究実績の概要 |
1) 新概念「トランジット移住」の理論について:移民、トランジット、トランジット移住に関する基礎的文献を入手中で、今年度演習授業で議論を行う。 2) ナチスドイツで発行された刊行物での上海移住への喧伝分析: 2021年夏のドイツ渡航での刊行物調査はコロナ禍で延期、Web上で閲覧可能な文献のみ調査を進め、中国での刊行物に関する研究に対して書評を執筆した。 3) ユダヤ人のアジアへの亡命に関する文献研究:上海亡命の歴史的と並行して、それに関する今日の記憶、すなわち今日の中国による政治的記憶について論文執筆し、ミュンヘンの亡命研究学会、フランスのモンペリエ大学研究会、ドイツの研究会において3本のオンライン口頭発表を行い、分析を深めた。これらの研究会の指導者たちによってSpace in Holocaust Researchというテーマで書籍出版が計画されており、拙著論文も収録予定である。 4) 「トランジット移住」の地としての日本へのユダヤ人亡命研究:1936年に日本へ移住し、NHK交響楽団の指揮者を1948年まで務めたヨーゼフ・ローゼンシュトックに関して、日本人の翻訳者家族からローゼンシュトックが英語で執筆した伝記のオリジナル原稿の一部を入手した。伝記は彼が日本での生活の後、米国移住後執筆され、『音楽はわが生命 ローゼンストック回想録』中村洪介訳、日本放送出版協会1980年が出版されたのみであった。今後、戦時中に日本で活動したユダヤ人音楽家について研究している演劇・音楽研究者ロルフ・アイジンガー氏、および学習院大学の博士課程学生と共に、伝記を英語の原稿と日本語の出版物からドイツ語に翻訳し、解説付きの書籍として出版する計画である。ローゼンシュトックは、まさにトランジット移住の地としての日本、またヨーロッパから移住したユダヤ人ネットワークを描き出しており、価値あるプロジェクトである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東アジアへのユダヤ人亡命が今日の中国と日本においてまったく異なって受けとめられていることが明らかになった。中国においては、公的な記憶政治に取り込まれ、国家的なプロパガンダの一部となっている。それと同時に、博物館や研究会、出版物によって研究が進められている。しかし、日本においては杉原千畝の活動を除いて、本テーマに十分な関心が向けられていないと言える。そのため、ユダヤ人の東アジアへの亡命への関心を引き起こし、研究の基盤を整えていきたい。なお、ドイツ東洋文化研究協会(OAG)から、ローゼンシュトックのドイツ語版伝記出版に関して前向きに検討するとの回答を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
新概念「トランジット移住」については、第二次世界大戦中の東アジアへのユダヤ人亡命研究に応用できるよう、理論を確立させる。上海移住への喧伝に関しては、昨年実施できなかった刊行物調査をフランクフルト所在の国立図書館にて行う。ユダヤ人亡命の中国での受容に関して、2本の論文を執筆する。「トランジット移住」の地としての日本へのユダヤ人亡命研究については、ローゼンシュトックの伝記出版のため、ベルリンのロルフ・アイジンガー氏を訪問し、2023年初めに研究会を開催する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年から始まった世界的パンデミックの状況で、海外における文献調査や海外研究者との意見交換、学会発表を軸とする本研究テーマの進行が著しく妨げられたため、また、本テーマの開始時期に終了するはずであった1本前の科研テーマも同様のパンデミックの影響で遅延延期が発生して、2つのテーマを同時進行させることになったため。また、最後の理由として、同じくパンデミック下において、協力を得るはずの研究助手の確保が困難なことや研究助手の大学への入校制限による制約による遅れも挙げられる。今年度は、海外渡航要件の緩和やワクチン接種により、海外での研究活動を再開する予定。
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