研究課題/領域番号 |
21K00426
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
山崎 敦 中京大学, 教養教育研究院, 教授 (70510791)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 汎神論 / フローベール / 美学 / 自然哲学 / 崇高 / ロマン主義 |
研究実績の概要 |
本年度、感染症による出入国制限が徐々に緩和されたことにより、三回の国際会議に参加することができた。いずれの国際会議においてもフランス語で研究成果を発表した。各発表内容を概説するかたちで本年度の「研究実績の概要」を示す。 6月パリの発表では、前年度に着手した「十九世紀フランスにおけるドイツ観念論受容」の研究テーマを展開させるために、クーザンの『真・美・善』を正面から取り上げ、十九世紀フランス美学において決定的な役割を果たしたこの哲学書の痕跡や影響を、フローベールの遺著『ブヴァールとペキュシェ』のうちに探った。 12月パリの発表では、『ブヴァールとペキュシェ』を主たる分析対象としたことは6月の発表と変わらないものの、主題については、これを一新して造園術(ピクチャレスク・ガーデン)に定め、汎神論(自然哲学)という本研究課題に新たな切り口からアプローチを試みた。近年、造園術の思想史的研究が進展し、十八世紀後半から十九世紀前半にかけての、美学と造園術の相即不離の関係が明らかになりつつあるが、そうした先行研究を参照して、フローベールの小説中に描かれた庭園を思想史的な観点から分析した。 3月名古屋の発表では、先行する発表をひきつぎ、美学と自然哲学を交差させながら、フローベールの小説を思想史的な観点から読解した。主題は「嵐の表象」である。なぜことさら嵐をとりあげたのかといえば、崇高の美学を旨とするロマン主義において、小説においても絵画においても、嵐は特権的な描写対象であったからである。初期作品を皮切りに『ボヴァリー夫人』を経て、遺著『ブヴァールとペキュシェ』に至るまで、フローベールが小説のなかで描き出す嵐をあとづけながら、この小説家が、みずからの汎神論的世界観(内在の哲学)に依拠しながら、崇高の美学を徹底的に換骨奪胎していくさまを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を遂行するうえで、研究成果を国内外の国際会議で発表することが重要であるが、前年2021年度に延期された3回の国際会議がいずれも本年2022年度に開催されたことにより、前年度の遅れを速やかに取り戻せた。その点に照らして「おおむね順調に進展している」とみずから評価している。
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今後の研究の推進方策 |
1)昨年度の3度の発表のいずれについても、すでに論集の刊行が決まっている(いずれもフランスの媒体)。今年度はまず、発表原稿から論文へのヴァージョンアップに注力している。発表時には、時間的制約から、多くの論点を切り捨てざるを得なかったからである。この作業を進めるには、文献の再調査のみならず再度の精読が不可欠であるが、こうした振り返りの作業を通じて、たんに振り返ることに満足せず、あらたな論点の発掘につとめたい。 2)前項で、研究成果の発表媒体としての国際会議の重要性を強調したが、これに鑑みて、本年度末に国内外の研究者を招聘し、国際会議(シンポジウム)を主催するべく、現在調整を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張や単著刊行の準備に忙殺され、予定していた物品の支出が遅れていることが、主たる理由であるが、この遅れの解消につとめたい。
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