十九世紀フランスにおける汎神論論争は、文学史のみならず、思想史や宗教史のなかでもその重要性が見過ごされてきた。本研究はこうした諸領域をまたいで論争の展開をつぶさに跡づけることによって、その多方面に及ぶ影響を解明した。「神即自然」を唱えたスピノザ哲学に淵源する汎神論は、十八世紀を通じて無神論の別名であったが、十九世紀になると、世紀前半は社会主義、世紀後半は実証主義といったぐあいに、その時々の思潮と結びつき、新たな火種となった。その意味で汎神論は一貫して「危険思想」であったといえるが、汎神論はいまでもなお命脈を保っており、本研究は現代にまで通じるその歴史的意義の解明を試みた。
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