研究課題/領域番号 |
21K00429
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森田 直子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (40295118)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古典 / バンド・デシネ / 漫画 / アダプテーション |
研究実績の概要 |
世界文学の古典は、原文で読まれる以外に翻訳や翻案を通して広く普及してきた。1940年代のアメリカで「発明」され、世界各国に普及した「名作文学の漫画版」は、年少者向けに粗筋や要点を漫画化したもので、文学研究者や教育者から否定的に見られることが多かった。しかし1970年代以降は、独自の解釈にもとづく創造的な翻案も見られるようになり、現在では漫画が文学教育の場で活用されることも多い。文学も漫画も基本的には「読み物」であるため、両者のあいだには独特の緊張関係と親和性がある。本研究の目的は、ヨーロッパの漫画を主な対象として、文学の漫画化において、漫画はメディアとしての固有性をどのように発揮してきたか、もしくはその固有性を犠牲にしてきたか、それは社会における漫画の位置づけとどのようにかかわっているのか、という問いに答えることである。 本研究は、児童(もしくは大人)向けの学習(情報)漫画としての古典的名作の翻案から、古典の読み直し・再解釈を促すアダプテーション、さらには古典の権威からの解放に誘うような挑発的なアダプテーションまで、時代ごとの変遷や多様なアプローチが見られるという見通しのもとに進める。一年目は、「名作文学」の漫画へのアダプテーションが、古典の批判的読み直し・再解釈として機能する事例として、ウィル・アイズナーによるディケンズ『オリヴァー・ツイスト』のアダプテーション『ユダヤ人フェイギン』を学生との共同研究の形で考察した(学生指導の一環であり、自著論文としては未刊行)。エスニック表象という観点からの古典の読み直しと、漫画のメディア固有性の活用の両面から分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度については、本研究課題の準備段階での考察(2021年刊行の共著に収録された論文)にもとづき、古典の読み直し・再解釈を促すアダプテーションの事例研究をおこなった。具体的には、ウィル・アイズナーによるディケンズ『オリヴァー・ツイスト』のアダプテーション『ユダヤ人フェイギン』を学生との共同研究の形で考察した(学生指導の一環であり、自著論文としては未刊行)。エスニック表象という観点からの古典の読み直しと、漫画のメディア固有性の活用の両面から分析した。文学の古典の位置づけを維持・活性化する目的のために漫画が利用されてきたそもそもの背景や経緯についての調査も着手している。
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今後の研究の推進方策 |
文学の古典の位置づけを維持・活性化する目的のために漫画がどのように利用されてきたのか、そのメディア的特性がどのように発揮され、どのように犠牲になったのか、という歴史的経緯について調査を進め、2022年度の成果発表をめざす。また、古典の漫画化を通して漫画の文化・教育における位置づけは変容する(した)のか、手段としての漫画でなく、漫画自体を評価する姿勢につながっているかを考察する。研究期間終了までに、文学と漫画のメディア的特質についての理論的なまとめを行いつつ、古典の漫画化が「文学」「漫画」さらに(メディアを横断すると考えられる)「物語」概念へのどのような問題提起をはらんでいるのかを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:2021年度に国内の研究協力者からの専門知識の提供・意見交換を予定していたが、学生との共同研究の時期との調整により延期した。 使用計画:当初2021年度に予定していた研究協力者からの専門知識の提供・意見交換を、2022年度に実施する。そのための資料収集・旅費・謝金を2019年度請求額と合わせて使用する計画である。
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