9月21日から22日にかけて、フランスのオルレアンで、「光と影の女性たち」と題する国際シンポジウムが行われた。政治家から一般市民さらには高校生までが聞きに来るこのシンポジウムは13回めの開催であり、とくに2023年のテーマは 「アウトローな女性たち」であった。これはエクトール・マロ作品における愛や女性の描写の特徴を明らかにしようとする本研究のテーマとも合致する。また光と影は、とくに犯罪を扱ったマロ作品を理解するうえで重要なモチーフであることがここまでの研究により判明していた。そこで、これまでの研究結果も紹介しつつComplices(共犯者たち)という作品を新たに分析する、「光と影の間で:エクトール・マロにおけるアウトローな女性たち」と題する発表を行なってきた。 日本からの参加は初めてであるということ、マロは開催地のオルレアンとも縁の深い作家であるもののやはり子供向け作品しか知られていないこと、何よりマロについての本格的な研究はフランスでも少ないことから、発表は大変好評であった。また、マロ友の会のメンバーがプログラムを見て発表を聞きにきてくれており、会長の連絡先を教えてくれた。同じく発表に感銘を受けてくれた元上院議員やフェミニズム団体の副代表とも交流をし、研究の地平をさらに広げることができた。 そのほか11月には、20世紀前半に活躍したベルギーの犯罪学者について、『犯罪へ至る心理:エティエンヌ・ド・グレーフの思想と人生』と題する単著を光文社から出版した。ド・グレーフはベルギー人であり、時代もマロより少し後である。しかし両者はともに、罪を犯した男性や女性を原始人にたとえている。マロと同時代の犯罪学者ロンブローゾの生来犯罪者説もふまえつつ、ド・グレーフとマロがなぜこのような比喩を用いているのかについても、この単著のなかで考察した。
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