研究課題/領域番号 |
21K00438
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
大須賀 沙織 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (50706653)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聖顔 / 受難 / キリスト / 十字架の道行き / ヴェロニカ / 聖骸布 / 聖顔布 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、受難のキリストの「聖顔」(Sainte Face)に対する信心が、フランスにおいてどのように形成され、継承されてきたかを解明することにある。1年目の2021年度は、現地調査をせずに実施できる文献収集と文献読解を中心に作業を進めた。具体的には、聖顔の信心の起点となる聖骸布とヴェロニカの聖顔布をめぐって、福音書、聖書外典、受難劇の読解を行った。資料として収集したのは、聖骸布関連書(英語、仏語、日本語)、聖書外典テクスト(仏語)、受難劇の校訂版各種(仏語)である。文献の読解分析により、次の点を明確化した。①キリスト埋葬の際、遺骸を包んだ亜麻布、イエスの姿が刻印されたエデッサの肖像、コンスタンティノープルのマンデュリオン(手拭い)、ローマのヴェロニカ(聖顔布)、フランスのリレからトリノに渡った聖骸布―これらの布をめぐり、福音書と聖書外典の記述、第四回十字軍の歴史、最新の研究書の見解をもとに歴史的経緯と真相を探った。②カトリック教会の信心業「十字架の道行き」第6留に現れる、イエスに布を差し出すヴェロニカ像は、福音書の長血の女から『ニコデモ福音書』等のヴェロニカ伝説を経て、フランス各地で編纂された受難劇、とりわけパリのアルヌール・グレバンの受難劇において具体的イメージを与えられ、今日まで継承されてきた。③十字架の道行きでヴェロニカが差し出した布と、アリマタヤのヨセフがイエスの遺骸を包んだ亜麻布という2種類の布をめぐる物語が、ときに交差、合流しながら、人々の想像世界と文学テクストの中で長い時間をかけて育まれ、形成されてきた。今年度の研究内容を論文「トリノの聖骸布とヴェロニカの聖顔布についての覚書―福音書から受難劇まで」にまとめ、東京都立大学『人文学報』に発表、機関リポジトリにて公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は新型コロナの影響で渡仏が困難であることを想定し、国内での文献調査をメインとした計画であったため、当初の研究計画に沿って、ほぼ予定どおり実施することができた。四福音書のギリシア語原文の確認、聖書外典5種、黄金伝説、受難詩・受難劇8種における該当箇所の確認と精読に時間がかかり、そのほか、第四回十字軍やテンプル騎士団の歴史も調べる必要があった。現地調査のない1年目は、当初の予定ではクローデルとルオーにおける聖骸布の影響に少しでも目を向けることを目標としていたが、手が回らなかった。2年目と3年目はフランスでの現地調査がメインになるが、クローデルとルオーの作品を考察する時間も作りたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、15世紀から17世紀にかけて、フランス北西部ナントとレンヌを中心に醸成されたヴェロニカの信心の現地調査と文献調査を予定している。現地調査は9月を予定しているが、コロナ下でフランスでの調査を予定どおり実施できるかわからないため、状況を見ながら予定を調整する。渡仏できた場合も、現地調査が予定どおりに行かないことも予想されるため、文献収集については、できるかぎり日本からフランス国立図書館、レンヌ市立図書館、ナント市立図書館に複写依頼をしてPDF版を入手し、文献調査を進める。2021年度に入手したドミニコ会修道士アントナン・トマ『聖ヴェロニカへの信心』等の文献から読解を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目と3年目(2022-2023年度)は資料収集にあてられる予算が少ないため、初年度(2021年度)の使用を最低限にとどめた。次年度、現地調査で収集する資料費にあてる予定である。
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