最終年度の2023年度は、①聖顔の信心をめぐるナント、レンヌ、パリでの現地調査(9月)と、②ジョルジュ・ルオーの《聖顔》をめぐる調査分析を中心に行った。 ①◆ナントは、15世紀にブルターニュ公ジャン5世によって「聖ヴェロニカ兄弟会」が設立された土地であり、兄弟会と信心の痕跡を求め、聖十字架教会ほか4教会、女子カルメル会修道院、ナント歴史博物館、司教区神学校図書館で調査を行った。◆レンヌは、17世紀に『聖ヴェロニカの信心』を著したドミニコ会修道士アントナン・トマと、19世紀に聖顔の啓示を受けたカルメル会修道女聖ピエールのマリーの出身地であり、聖ピエール大聖堂ほか6教会、レンヌ市立図書館、カルメル会修道女マリーの生家跡で調査を行った。◆パリでは、リジューのテレーズ(修道名「幼子イエスと聖顔のテレーズ」)とジョルジュ・ルオーの《聖顔》をめぐり、パリの勝利の聖母教会ほか3教会、国立近代美術館、キリスト教専門書店で調査と資料収集を行った。 ②ジョルジュ・ルオーの《聖顔》をめぐり、『ルオー全絵画』と『ルオー全版画』(岩波書店)を中心に作品の分析と文献読解を行った。清春芸術村(山梨県)のルオー礼拝堂と白樺美術館、パナソニック汐留美術館、出光美術館の展示作品とカタログをもとに、聖顔と受難をめぐる作品の考察を進めた。ルオーに影響を与えた文学者ジョリス=カルル・ユイスマンス、レオン・ブロワ、アンドレ・シュアレス、ルオーの最初の理解者となった哲学者ジャック・マリタンとライサ・マリタンのテクストを分析した。また、ルオーらの着想源となったドイツのアウグスティヌス会修道女アンナ=カタリナ・エムリックの『われらの主イエス・キリストの痛ましきご受難』の読解を進め、作品への反映を考察した。 論文「ジョルジュ・ルオーにおける聖顔とヴェロニカ覚書―信仰と文学をめぐって」にまとめ、機関リポジトリにて公開した。
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