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2022 年度 実施状況報告書

世紀転換期から第2次世界大戦後までのドイツ語圏における群集思考の歴史的展開

研究課題

研究課題/領域番号 21K00439
研究機関大阪公立大学

研究代表者

海老根 剛  大阪公立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)

研究分担者 古矢 晋一  立教大学, 文学部, 准教授 (20782171)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード群集 / ベルリン / フロイト / エルンスト・ユンガー / カネッティ / デープリーン / ヘルマン・ブロッホ / 都市文学
研究実績の概要

2022年度は研究代表者、研究分担者それぞれが計画に基づいて研究を進めるとともに、ドイツおよびオーストリアに滞在中の研究協力者2名の参加を得て、本研究課題に関する研究集会をベルリンで実施した(古矢はハイブリッド方式で参加)。
海老根は昨年度から引き続き1920年代中ごろのヴァイマル共和国におけるベルリンを舞台とする都市小説に現れる群集表象の分析を行った。今年度は特にベルリンを舞台とする多数の短編・長編小説を執筆した作家 Martin Kessel の作品を集中的に分析するとともに、そこに現れる群集表象を分析するための理論的枠組を提供する先行研究として、自然科学分野で発展した群れの科学の知見を批判的に受容した文化研究(Sebastian Vehlken、Kai van Eikels など)を検討した。
古矢は第一次世界大戦とその後の戦間期における群集の理論を考察するにあたり、歴史家モッセの『英霊』を体系的に参照しながら、英霊祭祀の問題を群集の言説とともに検討した。これまで戦間期ドイツにおける英霊祭祀の問題が群集の言説と直接関連付けられて論じられることはあまりなかったと言えるが、この問題を本格的に分析するための準備として、カネッティの「死者たちの群集」、フロイトによる兵士の群集心理学的分析、およびエルンスト・ユンガーの政治評論に見られる戦友意識を検討した。
ベルリンで開催した研究会では、慶応大学の粂田文氏と金沢大学の早川文人氏にもご参加いただき、それぞれが本研究課題に関わるテーマについて研究発表を行い、議論した。海老根と古矢は上述の研究内容に基づく報告を行い、粂田氏はアルフレート・デーブリーンにおける群集表象について、また早川氏はヘルマン・ブロッホの著作における群集について発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2022年度はようやく新型コロナウィルスによる海外渡航の制限が緩和されたため、海老根はドイツでの資料調査を実施することができ、またベルリンで研究協力者を交えた研究会を開催することができた。それ以外の研究活動についても、概ね計画通りに進捗していると判断できる。
研究代表者の海老根は当初予定していたルポルタージュ文学の分析には入れなかったものの、ヴァイマル共和国中期の都市小説について調査を進めるとともに、小説に描かれた大都市の群集表象を分析するために理論的観点について考察を深めることができた。共同研究者の古矢は、昨年度の研究会での報告と議論を踏まえ、今年度は戦間期における英霊祭祀の問題に焦点を絞り、それを同時代の群集をめぐる言説の関連において考察する作業を進めた。その過程でフロイトおよびユンガーに関しては複数のテクストの詳細な比較検討が不可欠であることを確認した。
2名の研究協力者の参加を得て行った研究会では、各自がそれぞれの研究関心に基づいて両大戦間期のドイツ語圏の作家や思想家のテクストに現れる群集の表象について報告を行ったが、それによって群集という問題系の広がりと複雑さが明らかになった。また、各自の問題意識とそれらの間にある接点を確認したことによって、次年度に計画しているシンポジウムの大枠についても共通認識を得ることができた。

今後の研究の推進方策

2023年度は、研究代表者、研究協力者のそれぞれが、計画に沿って各自の研究課題に取り組むとともに、研究協力者とともにシンポジウムを開催する予定である。
海老根は引き続きヴァイマル共和国中期の都市小説における群集表象が、当時のルポルタージュ文学における群集の主題の現れについての調査に着手するとともに、研究全体の理論的枠組を明確化するために、集団の行動と組織化に関する近年の政治哲学的理論を精査する予定である。またシンポジウムでの発表に基づいて論文を執筆することを計画している。
古矢は、フロイトおよびユンガーの著作の検討を進めるとともに、これまでの研究会での発表内容をもとに学会でのシンポジウムに向けて準備を進める。また戦間期における群集の言説の再検討とともに、ホロコーストの背景と群集の問題について引き続き考察する。具体的には、カネッティの『群集と権力』における「インフレーションと群集」について以前に口頭発表した内容を改稿して論文化する予定である。
今年度は研究協力者とともにシンポジウムを開催するが、そのために準備として定期的な研究会を開催し、準備を進める。
さらに研究代表者、研究協力者ともにドイツでの資料調査および研究者との面談を実施する予定である。

次年度使用額が生じた理由

科研研究会を研究代表者の渡航に併せてベルリンで開催したため、研究協力者への交通費の支払いがなくなったこと、および共同研究者が予定していた海外資料調査を延期したことが主要な要因である。共同研究者については、2023年夏に海外出張を行う計画である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 「A・デーブリーンにおける群集表象:第一次世界大戦と革命の周辺」2023

    • 著者名/発表者名
      粂田文
    • 雑誌名

      ドイツ文学

      巻: - ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] H・ブロッホ『魅了』における代理人像と1930年代オーストリア2023

    • 著者名/発表者名
      早川文人
    • 雑誌名

      ドイツ語文化圏研究

      巻: 19 ページ: 1-25

    • 査読あり
  • [雑誌論文] オーストリア・ファシズムの群集祝祭劇 ──ルドルフ・ヘンツ『聖ミヒャエルよ, 我らを導き給え』について2023

    • 著者名/発表者名
      早川文人
    • 雑誌名

      言語文化論叢

      巻: 27 ページ: 105-130

  • [雑誌論文] H・ブロッホ『ウェルギリウスの死』における農民像, あるいは反プロメテウス的楽園の夢──『群集狂気論』を手がかりに2023

    • 著者名/発表者名
      早川文人
    • 雑誌名

      言語文化論叢

      巻: 27 ページ: 131-155

  • [学会発表] 引用の技法と歴史の構築 『ボードレールにおける第二帝政期のパリ』における詩篇の引用と読解2022

    • 著者名/発表者名
      海老根剛
    • 学会等名
      大阪公立大学ドイツ文学会
  • [学会発表] Die gesellschaftskritische Interpretation eines Dichters. Poetologische Operationen in der Baudelaire-Marx-Lektuere bei Walter Benjamin.2022

    • 著者名/発表者名
      海老根剛
    • 学会等名
      Das Kulturseminar der japanischen Gesellschaft fuer Germanistik
  • [学会発表] Jenny Erpenbeck『Aller Tage Abend』におけるDingeの表象について2022

    • 著者名/発表者名
      粂田文
    • 学会等名
      Kolloqium am Institut fuer deutsche Literatur
  • [図書] 啓蒙思想の百科事典(古矢担当:『自由の科学』ゲイ、16-17頁)2023

    • 著者名/発表者名
      日本18世紀学会『啓蒙思想の事典』編集委員会
    • 総ページ数
      714
    • 出版者
      丸善出版

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公開日: 2023-12-25  

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