学術スキームの中でハビトゥスはすでに市民権を得たといえるが、本研究課題はそれが特に「変化する時代の要請に応えた社会思想」であることを通時的視点から証明することを目的とする。2023年度は現代フランスにおけるハビトゥス論の代表的論者ブルデューを研究の中心に据え、この思想の現代における意義を確認した。ブルデューがハビトゥスを集団、組織、共同体の形成因として働くものと定義してすでに60年近くが経過したが、この着想を彼は、美学者アーウィン・パノフスキーが『中世ゴシック建築とスコラ学』の中で使った「メンタル・ハビット」から得ている。そのことは彼が記した「あとがき」にはっきり読み取れるが、これにはこれまで邦訳がなく、研究上の空白となっていた。研究代表者はこれを全文翻訳し、その解説を発表した。 またブルデューのハビトゥス研究で教育機関、とりわけ大学教授のハビトゥスは重要な位置を占めていることに注目し、2023年10月『カリスマ教師とその弟子たち』というシンポジウムを3名の研究者と日本独文学会秋季大会で開催し、研究発表を行った。これにより敗戦国ドイツやオーストリアで戦間期に人文科学への期待が増大し、それを支える大学教授や「学派」が形成され、これがファシズム化するという特異な傾向が見られることが明らかになった。
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