本研究の成果は、1)従来通説として受容されてきた「ペテルブルクの神話」の文学的原点を、下町コロムナを舞台にしたプーシキンの「ペテルブルク物語三部作」の分析によって論証したこと、2)「ペテルブルクの神話」がその後、ロシア近代の「分断」を描いたゴーゴリの「ペテルブルク小説」と、ゴーゴリを批判して「調和の願望」を描いたドストエフスキーの「夢想家の物語」によってコロムナを舞台にした物語から修辞化していったこと、3)ドストエフスキーの「夢想家」に新たな解釈を提示したこと、4)「虐げられた人々の系譜」とされる 「小さき人」の文学史的解釈に調和の願望の欠落を指摘したことである。
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