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2021 年度 実施状況報告書

近代ドイツにおける〈身体〉の啓蒙 ―汎愛主義体育の思想的研究―

研究課題

研究課題/領域番号 21K00449
研究機関福岡大学

研究代表者

田口 武史  福岡大学, 人文学部, 教授 (70548833)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード身体 / 体育 / 汎愛派 / グーツムーツ / オリンピック / ナショナリズム / 神話作用 / スポーツと政治
研究実績の概要

①J.C.F. グーツムーツ(1759‐1839)の考案した近代学校体育について、古代以降のヨーロッパ体育史を概観しつつ、その歴史的・思想的位置づけを探った。グーツムーツは、それまで単なる娯楽と認識されてきた運動・遊戯に、「健全な精神」と「公益に資する身体」を育む教育的効果を見出した。無論、これは既に古代ギリシアに確立していた思想だが、キリスト教化以降のヨーロッパでは半ば忘却されていた。かかる状況を打破したのはロックとルソー、そして彼らの教育理念を実地に移したドイツ汎愛派である。この一派に属するグーツムーツは、個人の生得能力を引き出すことを目的に、運動・遊戯を汎愛学校の教育プログラムに組み込んで体系的に実施した。同時に、汎愛学校のステークホルダーたる市民階層に対し、身体活動の社会的価値を訴えた。その際、運動が卓越した人間性につながる証として、古代オリンピックを――クーベルタン男爵より1世紀も早く――引き合いに出した点がとりわけ注目される。運動する身体が、近代において精神性と神聖さを再獲得する、ひとつの重要な契機となったと推測されるからである。
②論文「祖国ドイツの友として、両親、教育者、教師は子供の教育において今何をすべきか」(1815)を対象に、19世紀に入ってグーツムーツの体育が変質する様を跡付けた。グーツムーツは、元来啓蒙主義的コスモポリタニズムを信条としていた。しかし、ナポレオンによるドイツ占領を経験した後はナショナリズムへと傾き、「祖国のための体育」を提唱するようになった。個人の自己実現と公共心育成のために構想された体育は、いまや祖国の自由と独立を守るための教練となった。体育教育黎明期に生じたこの路線変更は、しかし、不幸にもタイミングが重なった政治的事件の結果ではない。社会的に有用な身体を育てんとする功利主義的志向に、すでにナショナリズムが胚胎していたと考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コロナ禍の影響で資料収集が予定どおりには進まなかったものの、すでに手元にある資料および大学図書館・国内の資料を用いて、基礎的な考察を進めることができた。また年度中に開催された2つのオリンピック/パラリンピックの経緯とそれに関する様々な意見、とりわけスポーツと政治の関係をめぐって活発に交わされた議論を顧慮することで、本研究の問題意識をさらに先鋭化することができた。

今後の研究の推進方策

初年度後半に検討を進めたグーツムーツの論文「祖国ドイツの友として、両親、教育者、教師は子供の教育において今何をすべきか」(1815)に関して、より詳細な考察を加え、論文にまとめる。その際、ナポレオンの侵攻以前に書かれた『青少年の体育』(1793)と以後に書かれた『祖国の子息のための体操書』(1817)とを比較することで、祖国占領という体験がグーツムーツの体育観・身体観に与えた影響を具体的に跡付ける。
さらに、グーツムーツの直接的影響を受けてトゥルネン運動を開始したF.L. ヤーンの『ドイツ国民性』(1810)『ドイツ体操術』(1816)、ナポレオン占領下におけるフィヒテの講演『ドイツ国民に告ぐ』(1808)の体育に関わる個所の検討に着手する。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍の影響で、予定していた他大学での体育関連資料調査ができず、また成果発表および情報交換のため参加するはずであった学会もすべてオンライン開催となった。こうした事情から、当該年度の科研費執行が限定的にならざるをえなかった。
次年度は、この未使用分と令和4年度分の予算とを合わせて、研究資料の購入費用および資料調査、学会参加の旅費に充てる。さらに、関係する情報の収集・整理と研究成果発表に使用するコンピュータおよび関連機器を購入する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 2021

すべて 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [学会発表] 〈青少年〉のための体育から〈祖国〉のための体育へ2021

    • 著者名/発表者名
      田口武史
    • 学会等名
      日本独文学会中国四国支部第70回研究発表会
  • [図書] 植朗子、清川祥恵、南郷晃子編『人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか』(「近代市民の身体をめぐる神 話 ―J.C.F.グーツムーツの「体育」におけるゲルマンとギリシア」を担当)2022

    • 著者名/発表者名
      田口武史
    • 総ページ数
      382(内19)
    • 出版者
      文学通信

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公開日: 2022-12-28  

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