研究課題/領域番号 |
21K00453
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤石 貴代 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20262420)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 浅井十三郎 / 詩と詩人 / 金鍾漢 / 国民文学 / 新地方主義 / 長篇叙事詩 / 愛国詩 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、新潟の詩人、浅井十三郎(本名:關矢與三郎 1908-56)が戦前・戦後を通じて刊行した詩誌『詩と詩人』(1939-57 通巻112号)および、敗戦後の焦土でいち早く発刊された『現代詩』(1946-50 通巻37号)の検討を通じて、同時期の朝鮮半島の詩人および文学運動とのつながりを明らかにすることである。両誌には、戦後日本の詩壇を牽引した詩人たち(『荒地』の鮎川信夫、『列島』の長谷川龍生、等)が寄稿しているが、現代日本詩史からは忘却された(河邨文一郎『わが交友録』まんてん社、1978年)。同じく忘却された「外地」の文学運動との具体的な連関を復元するにあたり、特に、1940年代前半期の朝鮮半島で唯一、発行を許可された月刊文芸誌『国民文学』(1941-45 通巻39号)誌の編集者・詩人・翻訳者であった金鍾漢(1914-44)と、新潟県北魚沼郡広瀬村に生きた浅井がともに主張した「新地方主義」に着目した。併せて、金鍾漢が提唱した「史詩」という形式を、戦前の民衆詩派および『現代詩』誌上で展開された「長編叙事詩運動」との関りから考察した。金鍾漢については、『蝋人形』(西條八十主宰)および金が在学した日本大学専門部芸術科発行『藝術科』の調査により、2005年に刊行した『金鍾漢全集』(緑蔭書房)未収録作品のうち8編を追加した。『詩と詩人』についても、リーフレットの形態で発行された92集(第12巻3号 1950年5月 A4・4頁)、および付録の「詩と詩人通信」改題「氷河期」4号の発行を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『詩と詩人』については,国立国会図書館に創刊号(1939年6月)より事実上の終刊号である112号(1957年3月)まで所蔵されているが,欠号が多い。新潟県立図書館には通巻24号(1942年1月)より111号(1956年6月)まで所蔵されているが、欠号のうち、リーフレットの形態で発行された92集(第12巻3号 1950年5月 A4・4頁)、および付録の「詩と詩人通信」改題「氷河期」4号の発行を確認した(2号は日本近代文学館に所蔵されている)。また、各号の編集後記の内容に加え、103集に同封されたと見られる手書き(謄写版)の「激!同人再組織について」により、『詩と詩人』の編集同人(「全地区編集委員」「東京編集委員」)組織と経営の状況が分かった。併せて、2005年に刊行した『金鍾漢全集』(緑蔭書房)未収録作品のうち、『蝋人形』(西條八十主宰)および日本大学専門部芸術科発行『藝術科』の調査により、8編を確認した。のち第一詩集『たらちねのうた』(人文社、1943年)に収められる詩の習作と判断されるものもあり、引き続き調査を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
『詩と詩人』については、国会図書館・新潟県立図書館・日本近代文学館、等に散在しており、引き続き全巻の調査に努める。戦争期には、同人の出征や移民(就職)により、同時代の朝鮮半島や中国大陸(「満洲」含む)での「愛国詩」「国民詩」運動への共感と連帯意識が誌面に現れるが、各種詩誌が『詩研究』『日本詩』の2誌に統合(1944年6月)される過程と対照しつつ、その様相を明らかにする。「長編叙事詩運動」については、『現代詩』1949年7月号裏表紙の広告欄に、「叙事詩と劇詩の問題」(『詩と詩人』85集)を執筆した「トム・カメイ(亀井トム)」による『叙事詩への道』新刊案内(叙事詩と劇詩研究会出版部、1949年)が掲載されているのが目を引く。戦後日本詩壇で「叙事詩への道」の可能性がいかに開かれ、なぜ閉ざされたのか、当時、長篇詩作者として名指しされながら、現在では著者も作品も忘失された詩人群の調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
国会図書館にマイクロフィルムの形態で所蔵されている『詩と詩人』の調査を、県外あるいは特定地域への移動自粛(勤務校の新型ウイルス感染拡大防止のための行動指針)により実施できなかった。また、県内外の大学図書館(勤務校含め)は学外者の入館を禁止しており、禁帯出資料を調査(閲覧・複写)できない。海外出張・渡航についても「強い自粛」指示が継続されており、旅費計上分を使用できなかった。古書購入費に振り替える予定である。
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