研究課題/領域番号 |
21K00454
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北田 信 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (60508513)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ダカニー・ウルドゥー / ビージャープル / デカン / アワド / スーフィー / 新期インド・アーリア語 |
研究実績の概要 |
前年に引き続き、Richard Williams博士(SOAS)と共同で、ヌスラティー作のダカニー・ウルドゥー語(以下「ダカニー語」と略す)による物語詩『愛の花園』のテキスト解読および英訳を行った。その過程で、前書きに含まれる、ヌスラティーの自伝的記述、庇護者アリー・アーディル・シャー二世及び、その継母ハディージャ・スルターナへの賛辞、ヌスラティーの創作論及び言語論についての述懐を分析した。Aditya Behlの研究によれば、この作品はアワド語詩人Manjhanが著したスーフィー物語詩『Madhumalati』(1545AD)の翻案である。ビージャープル王国は、先行する西チャールキャやヴィジャヤナガラ王国の帝国的理念を受け継ぎ、それをイスラーム的な表現に落とし込んではいるが、自らが汎デカンあるいは汎インドの代表者、という姿勢を打ち出していたから、『愛の花園』がアワド文壇の潮流を汲むことも、その表れの一つであると見なすことができる。ハディージャ・スルターナはゴールコンダ国王の娘でありビージャープルに嫁いだ。彼女が指揮したダカニー語文芸振興の下で、ゴールコンダ・ビージャープル両王国のダカニー語詩の流派が融合された。ハディージャ・スルターナの例は、ダカニー語文学の受容者の中に、後宮に暮らす高位の女性達が含まれていたことを示す。実際、『愛の花園』には、当時の後宮内の生活を如実に描いたと思われる記述が多くみられる。ヌスラティーの創作論によれば、彼は、アワド語の原作を換骨奪胎し、インド詩とペルシア詩の両スタイルを融合して新しい詩言語を創造することを目指した。彼が絶頂に導いたダカニー語詩の洗練された言語は、ビージャープル滅亡後も生き続け、古典ウルドゥー語詩の礎となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オンライン会合ツールを利用することにより、海外の研究協力者と頻繁に研究会を行うことが可能になり、英訳の作業は順調に進展している。インド国カルナータカ州ビージャープルを訪れ、詩人ヌスラティーおよび庇護者アリー・アーディル・シャー二世ゆかりの遺跡を実地に見学し、テキスト読解を容易にし深める為の有用な情報を集めることができた。国際学会ICELMNIおよび日本南アジア学会で研究発表をした。また、研究協力者を大阪大学に招聘し、ダカニー・ウルドゥー語文学に関する講演会、ワークショップを実施した。こうしたことから、選択肢(2)が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き『愛の花園』の英訳作業を継続する。また、研究対象を徐々に次のものに広げていく予定である。(1)ヌスラティーの他の作品群、特に軍記『アリーナーマ』やガザル(恋愛詩)群の調査、(2)ヌスラティーの庇護者アリー二世は自身がダカニー語の優れた詩人であり、その詩集の調査、(3)『愛の花園』の原作であるアワド語『Madhumalati』の調査、(4)ヌスラティーと同時期のゴールコンダ詩人で、ヌスラティーに影響を与えたらしい詩人ガッヴァースィーの物語詩『Saif al-Muluk』および『鸚鵡物語』。これらの文献を調査することにより、この時代のビージャープル文壇の性格と、そこにおけるヌスラティーの位置づけをより的確に行うことが可能となろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染状況やそれに対するインドその他の国々での水際対策等を鑑みて、夏の間は計画していた海外調査を実施しなかったため、未使用額が生じた。しかし、2023年度には計画通り、あるいは計画に若干の修正を加えた海外調査を実施できる見込みであり、当該助成金を使用することができる。
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