研究課題
最終年度の成果として、4本の論文を公刊し、7本の口頭発表を行い、関連する3つの主題について以下のことを明らかにできた。なお論文のうち1本は査読を経てBrill刊行の論文集に収録され、口頭発表は国外の3機関と連携して1本を英語で行ったほか、複数の講演について活字化が予定されている。第1に明治日本における倭寇再評価をもたらした英国モデルの解明がある。アウグスティヌスに由来するアレクサンドロス大王に反駁した海賊の逸話が、ピーター・パーレーの『万国史』や『パーシー逸話集』によって明治期に流布したことが判明した。テロリズムと帝国主義は見分けられないのではないかと問いかけるこの逸話が、倭寇を先遣隊や先駆的な商人として再評価する際に援用された事を指摘できた。倭寇をノルマンなどの海賊に比定し、徳川の鎖国によって帝国の建設が途絶したという歴史観は、竹越与三郎から鈴木秀次、さらには和辻哲郎にまで継承されたことも明らかとなった。第2に、倭寇の顕彰がいわゆる「娘子軍」ないし「からゆき」の後景化と連動していた可能性の指摘がある。1920年代後半からの黒板勝美や岩生成一による日本町の調査と顕彰は、女性の方が多く居住する同時期の南洋日本社会にあって、「南進」の先駆者と推進の主体は男性であることを印象づけることとなった。それが彼らの意図であったかどうかはともかく、南洋を舞台にした一群の小説を見ると、その傾向が明らかに読み取れることを指摘した。第3に、このような振興と無縁なところで、海を越えて文化を切り結んだ一連の在日外国人の事績を発掘した。稲・ブリンクリーに関しては遺族から娘がいたことについて新資料の提供を受け、グルチャラン・シンについてはドキュメンタリー映画The Lotus and the Swan(2023)の制作に協力し、ポール・ジャクレーについては官憲による監視記録を発掘した。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
人文学林
巻: 1 ページ: 143~164
10.18910/95137
喜多千草編著『20世紀の社会と文化』ミネルヴァ書房
巻: 0 ページ: 9~30
大阪大学大学院人文学研究科紀要
巻: 1 ページ: 51~75
10.18910/94799
Peter Hajdu et al. eds, Literatures of the World and the Future of Comparative Literature (Brill)
巻: 0 ページ: 37~50
10.1163/9789004547179_006