大伴家持とほぼ同時代に作られた和歌を収め、家持がその編纂に深く関与したと見られる『萬葉集』巻16の作品の分析を主に行うことを通して、以下のようなことを明らかにした。 和歌表現に初学書『孝経』や『論語』の一節を踏まえたもののあること、題詞や左注の文章に六朝志怪小説『捜神記』や初唐伝奇小説『遊仙窟』、或いは書簡文例集『杜家立成雑書要略』のような実用書などから得た表現が用いられていること、また、中国の宴席の場における詠物歌の方法が高度に応用されていること等である。これらはいずれも大伴家持が受容した中国文学の教養の実態とその具体的な利用のしかたを示すものと言える。
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