研究課題/領域番号 |
21K00464
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
野田 研一 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (60145969)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 言語風景 / 視点 / 移動 / 視の制度 / 遠近法 / 凝視 / 一瞥 / 均質空間 |
研究実績の概要 |
言語風景=自然記述における文学的表象としての形式性と歴史性の解明を主な目的とする。近代散文における〈風景〉記述様式が、歴史と〈視〉の制度に規定された様式であることの検証を行う。3年間の研究計画のポイントは下記の4点であるが、初年度に当たる2021年度は、言語風景における〈視〉の制度と表象の実態を、(1)および(2)の〈視点〉と遠近法の理論的諸問題に焦点を絞り研究を推進した。すなわち、マーシャル・マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』ほかの著作の精読・分析を通じて、〈視点〉の設定こそが均質空間を前提とする近代散文における〈風景〉記述の要となっていることを確認した。その過程で論考を2編執筆した。いずれも石牟礼道子『苦海浄土』における〈風景〉記述の様相を解明するために、マクルーハンの〈視点〉論を応用した論考である。石牟礼は「近代文学」概念に対する懐疑を抱懐しつつ、水俣の〈風景〉を描くというパラドクスを示している。本研究ではそこに〈視点〉の移動という脱遠近法的というべき独特の表現態を見いだすことができた。 (1)「固定された視点」による対象世界の遠近法的構造化・三次元化の結実としての「単一音調的散文」という概念がいかに風景画と同期的に展開したかを歴史的に観察し、具体的には「単一音調的散文」という概念の今日的有効性を測る。 (2)20世紀後半以降の問題として、〈視点〉の〈移動〉に起因する言語風景の変容の問題も分析対象とする。 (3)20世紀以降における〈視点〉論の問題として、遠近法に基づく「〈凝視〉(gaze)の論理」と、脱遠近法的な「〈一瞥〉(glance)の論理」の区分の問題を、具体的な作品の相に即して検討し、〈風景〉の解体と再編の様相を把握する。 (4)N・ブライソン等が〈一瞥〉(glance)の論理が強く働く美術ジャンルとする山水画の〈視〉の制度を調査し、言語風景との比較検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は概ね順調に進捗しているが、残念ながらそれ以上でないのは、コロナ禍に阻害されて、出張による実地調査などが実施できないためである。申請時あるいは2021年度当初よりも改善される可能性を想定していたが、実質的には緊急事態宣言などにより実施できなかった。しかし、文献調査に関しては大変重要な進捗が見られた。第一に、〈視点〉論を中心としたマクルーハンの中心著作『グーテンベルクの銀河系』および『メディア論』の読み込みが進み、またこれまでなかなか入手しがたかった初期著作や文学批評の読み込みも進捗した。第二に、『グーテンベルクの銀河系』(1962)を基軸とする「声の文化」(oral culture)研究の系譜を1950年代から80年代までおおよそたどり直し、いわば「マクルーハンの銀河系」というべき研究史の見取図を作成することができた。その結果、声の文化と文字の文化、印刷以前と印刷以降、遠近法以前と遠近法以降、風景以前と風景以降、といった枠組みを文学表象分析に適用することが可能になった。第三に、以上の展開の結果、「反散文論」という新たなテーマ設定を追加する見通しが立ってきた。これはマクルーハンが提起する印刷革命以降の近代文学の状況を「散文の誕生」あるいは「散文の時代」と設定する場合、そしてそのような状況に批判のメスを入れる場合、それは「反散文論」として帰結することが想定可能となったことを示している。第四に、研究会の開催である。上記のような理論的な経緯を踏まえて、昨年度はオンラインによる研究会を2回開催した。これはいっぽうでイギリス小説・散文の歴史に詳しいベテラン研究者を報告者として迎え、他方で日本近代文学に関する若手研究者を報告者として、英語圏、日本語圏の両面から近代散文=小説とは何かを問い直す機会とした。
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今後の研究の推進方策 |
本課題は下に掲げた計画(1)(2)(3)(4)を中心として進めており、初年度は(1)および(2)について文献研究を中心に進め、計画段階よりも大きな進展を見ることができた。今後は(3)・(4)への展開を具体化する必要があるが、他方で(1)・(2)についてもまだまだ深化すべき余地は多く残っている。したがって、2022年度は、徐々に(3)・(4)へと研究課題を拡張する段階に相当するだろう。その過程で、オンラインを含む研究会の開催、当初予定していた山水画などを中心とする実地調査の実施(主に国内)、さらには、最終年度に予定している出版計画の具体化へ向けた展開も必須として進めている。 (1)「固定された視点」による対象世界の遠近法的構造化・三次元化の結実としての「単一音調的散文」という概念がいかに風景画と同期的に展開したかを歴史的に観察し、具体的には「単一音調的散文」という概念の今日的有効性を測る。 (2)20世紀後半以降の問題として、〈視点〉の〈移動〉に起因する言語風景の変容の問題も分析対象とする。 (3)20世紀以降における〈視点〉論の問題として、遠近法に基づく「〈凝視〉(gaze)の論理」と、脱遠近法的な「〈一瞥〉(glance)の論理」の区分の問題を、具体的な作品の相に即して検討し、〈風景〉の解体と再編の様相を把握する。 (4)N・ブライソン等が〈一瞥〉(glance)の論理が強く働く美術ジャンルとする山水画の〈視〉の制度を調査し、言語風景との比較検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
配分された予算額に対して、2021年度はコロナ禍による緊急事態宣言などのために、計画していた博物館・美術館調査その他の出張類を断念せざるを得なくなった。しかし2022年度では、〈視点〉論に関する風景画および山水画の比較研究を推進するために、2021年度残額を活用し、その分を次年度分と合わせて使用する計画を立てている。具体的には、博物館・美術館(国内)における調査、関連研究会等への出張である。2022年度のコロナ禍の状況にもよるが、研究上の必要性からも可能な限り、2022年度は当初計画において予定していたこれらの資料調査出張を実施するために、これらを重点項目として位置づける。
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