研究課題/領域番号 |
21K00469
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
林 信蔵 福岡大学, 人文学部, 准教授 (20807911)
|
研究分担者 |
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (00706301)
成田 麗奈 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (30610282)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | エミール・ゾラ / アルフレッド・ブリュノー / ヴァーグナー主義 / オペラ共作 / ナショナル・アイデンティティ / 自然主義オペラ / 物語論 / 比較芸術論 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀後半に活躍したフランスの小説家エミール・ゾラと作曲家アルフレッド・ブリュノーのオペラ共作の諸相とその共作が二人にもたらした芸術上の創造性を明らかにすることを目的としている。とりわけ、ゾラがブリュノーとともに作り出したオペラ共作のための美学のなかに、文学と音楽に共通する創造上の論理が設定されていることに注目し、それらの論理がゾラとブリュノーのオペラ作品にどのようなオペラ史的な特性をもたらしたかを考察する一方で、同じ論理がゾラのオペラ共作以後の文学的営為にどのような革新をもたらしたのかも考察の対象とする。 研究開始初年度の2021年度の研究概要は以下の通りである。 1)研究代表者は、2020年度まで、福岡大学の学内プロジェクトで行なっていた研究内容を2021年度から本研究で発展的に継承しながら、ゾラのオペラ共作のための美学が持つ特徴とその形成の経緯を、主に、ゾラのオペラ美学における「フランス性」の強調、ヴァーグナーのオペラ美学への対抗、第三共和制の植民地拡張主義との関係という観点から考察した。 2)音楽学を専門とする研究分担者は、オペラ史的な観点から、ブリュノーが代表するフランスの自然主義オペラが、1900年前後の音楽批評言説の中で、どのように記述され評価されたかについて、主にヴァーグナーの影響の克服という試みやドビュッシーの登場という文脈と関連づけて考察した。 3)さらにゾラ研究・物語論の観点から考察を行う研究分担者は、ゾラとブリュノーのオペラ《メシドール》における予告という問題に関して、第3幕第1タブローにおけるバレエ「黄金の伝説」が先取りしているかのように見えるオペラ全体の結末が、バレエの結末と一定の類似性を持ちながらも位相を異にしており、その差異の意味の考察が重要となることを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は3ヶ月から4ヶ月に一度のペースで遠隔会議システムを用いた打ち合わせを行いながら、メンバーの状況を確認しつつ研究を進めた。研究代表者の本務校の授業は対面授業であったが、二人の研究分担者の授業は遠隔授業であるなど、コロナ渦対応という研究上の制約があった。また、研究代表者および一部の研究分担者においては、子育ての関係で研究活動が制限される場面もあった。 しかしながら、これら多くの問題があったにも関わらず、研究自体は、研究課題を遂行する上で必要最低限の進展を実現することができた。未開拓の分野であるために業績の発表は必ずしも多くなかったが、業績を発表する上での基礎的な蓄積を各メンバーが行うことができた。 研究代表者は、本研究課題開始前に終了した学内プロジェクトの成果を受け継ぐ形で、4月以降、特にフランスの第三共和制における植民地拡大政策とゾラの美学的イデオロギーとの連続性というテーマに関して研究を発展させ、その成果の一部を青山学院大学総研プロジェクトの研究会「19・ 20世紀のフランス文学とオペラ」において発表した。 音楽学を専門とする研究分担者は、研究期間開始直後は、基礎的文献や資料の収集に時間を費やしたが、順調に自然主義オペラに関する言説の分析を進め、信州大学で開催された日本音楽学会第72回全国大会において口頭発表を行った。 また、ゾラ研究・物語論を専門とする研究分担者は、直接的に本研究課題と関連する業績の発表はなかったが、ゾラのオペラ台本のドラマトゥルギーに関する興味深い指摘を行い、その指摘に関して、メンバー内で意見を交換している最中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も新型コロナウィルス感染拡大状況を注視する形で研究を推進するためにミーティングは対面を避け、基本的に遠隔や電子データのやりとりを通じて行う。去年度と同様に年に数回のミーティングを行い、メンバーが相互に意見を交換する形で研究を推進していく。 2022年度の研究遂行の上での大きな課題は、当初の研究計画において盛り込まれていた、長期休暇におけるフランス現地調査が実行可能か否かというものである。各研究メンバーとも、自らの研究の基礎が定まり方向性が決まりつつあるが、それらを研究業績にするためには、一次資料の参照は必須のものとなる。このため、ぜひ海外調査を実行したいのだが、フランスへの渡航は、制度上は可能になったとしても、渡航前後の自主隔離期間等があるために本務校業務等の関係上、大きな問題があることが予想される。仮に、本年度、フランス現地調査が難しいということになると、研究全体のスケジュールは、1年から2年遅れることが予想される。そのような状態に至った場合は、本課題の研究期間を1年から2年延長することでの対応を考えている。 また、今年度は、各メンバーに、研究資料の収集や分析だけではなく、より研究成果の公表に力を入れるように促していく。これは、来年度以降、シンポジウムや共著刊行という形でより重要な研究成果を公表していく上で、基礎となるべき業績を確保し、その内容をメンバー間で討議するためである。こうした討議の結果、現在のメンバー以外の協力者が必要となった場合は、シンポジウムの講師や共著の執筆者というかたちで協力を依頼する人選をメンバーと協議して決めていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在も新型コロナウィルスの感染拡大やウクライナ危機の終結が見通せない中で、入国制限や旅行費の高騰などの理由で現地調査が困難になる可能性に対応するため、研究第1年目の2021年度は、各メンバーが出費を抑えることをミーティングで確認した。 2021年度からの繰越分は、2022年度に海外調査が実施可能になった場合、値段が高騰することが予想される航空券の購入費用にあてる予定である。また、2022年度に海外調査が実施できない場合は、その代替として、データで入手可能な海外の資料を購入するための費用、および、データ資料を分析するためのデジタル機器の購入費として使用する予定である。
|