研究課題
基盤研究(C)
本研究では、英国・日本の劣位に置かれた人間に関する記録文学・ルポルタージュが再審に付され、そこに現出している貧困の歴史的にして現在的な諸問題が、国際的な視野と文献の下に考究されている。三年間を通じ、英・日のジャーナリストが残した都市の貧民窟の記録について手広く調査、地道な解読の作業をおこない、貧困という階級(概念)の内実を、歴史過程に即してのみならず疫病対策/公衆衛生を含む生物への環境条件という視座からも、検分することができた。
近代日本文学 優生思想
日本の歴史的な西欧資本制への追随のありようは、その放恣を下支えした困窮階級の実態分析においても不十分であり続けている。この度の研究は、従来の階級分析、とりわけスラム住人の生活様態の解析に欠落していた同時代の疫病の度重なる猖獗、公衆衛生的隔離または優生学的分断の要因を(英国ルポとの比較考量から)組み入れたことによって、連帯もしくは団結へと成就されにくい集合性のあり方への深い理解とあらたな克服の方途を示唆しえた点に歴史的また今日的意義があると思われる。