研究課題/領域番号 |
21K00479
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
矢放 昭文 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 招へい研究員 (20140973)
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研究分担者 |
鈴木 慎吾 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (20513360)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 音訳漢字 / 英語 / 粤語 / 四州志 / 梁進徳 / 華英通語 / 脱鼻音化 / 付加記号 |
研究実績の概要 |
該当期間中、代表者は院生・学生のアルバイト支援を得つつ、魏源(1794-1857)編『海国図志』(岳麓書社2004年版)収録『四州志』が記録する世界各地名の音訳字標記と対応するラテン文字地名のエクセル入力を完了し、ひきつづき中古音系(声母・韻母・声調)などの音韻情報を確定・入力する作業を進めている。そのデータの一部によれば、例えば假攝二等疑母などの脱鼻音現象を認めることが出来ており、今後の展開が期待できる。データベース作成作業は当初計画通りには進まず、やや遅れているが研究は着実に進んでいる。 『海国図志』収録『四州志』は、林則徐(1785-1850)の下で通訳・翻訳を担当したと伝えられる梁進徳(生没年不詳・広東高明人)が主体となり、Huge Murray原著“An Encyclopedia of Geography”(伝1834年)を漢訳した『世界地理大全』(1839年)を、後に魏源が『四州志』と改称し『海国図志』に収録したものと論述されている。代表者はこの論述の堅牢性に従い、19世紀前半の音訳字資料として当時の粤語音の一端を研究する有力な資料であること確信するに至っている。 一方で代表者が従来から研究を進めている『華英通語』については「福澤増訂本」に基づく英語語彙入力が完了しており、対応する音訳字については俗字・変則字が多用されているが故に、原則を定めて「翻字」作業をすすめている。今後は「咸豊本」「狩野文庫本」「哈佛本」間での収録語彙・音訳字の音韻特徴について異同状況を究め、研究の次段階に進む準備をすすめている。 分担者は、代表者が必要とする院生・学生のアルバイト支援を管理する一方、書面粤語文体の語法研究を視野に入れつつ『天路歴程』(粤語版正編1871・続編1870)のうち、正編に見られる「付加記号」についてのエクセル入力を達成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究はやや遅れている。『海国図志』収録『四州志』地名の音訳字については整理完了までの見通しがついている。一方、『華英通語』音訳字のデータベース化については、「福澤増訂本」に基づく英語語彙入力が完了しているが、音訳字体に俗字・変則字使用が多いため、原則を定めて「翻字」作業をすすめている。また「咸豊本」「狩野文庫本」「哈佛本」各本間の語彙・文例の異同を確認・記録する作業も同時並行しているものの、予想外の時間を費やしている。当初目標とする資料毎の個々の音訳漢字について中古音系(声母・韻母・声調)と対応するラテン文字標記を照合したデータベース作成着手は「翻字」などの作業を終えてのちになると判断している。 分担者は、代表者が必要とする院生・学生のアルバイト支援を一層進めると同時に、『天路歴程』(粤語版正編1871・続編1870)の書面粤語文体の語法研究を視座にいれエクセル入力した正編の「付加記号」の言語的価値について考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後推進する研究方策として、院生・学生のアルバイト雇用を大幅に増やし、研究資料のデータベース完成を目指す計画をたてている。ただし当面は、音訳字体の「翻字」基準確定を優先する。確定した段階で『華英通語』「咸豊本」「狩野文庫本」「哈佛本」各版間の音訳字語彙・文例の異同を確認・記録する作業について、院生・学生のアルバイト入力応援を依頼する。データベース完成後は、考察を進めて音韻特徴を追求し、粤語音の諸特徴と、資料編纂者たちが表音手段として工夫を重ね英語音表記を実現した際の調音基準に作用した基礎方言の音韻特徴を究め、多様性に富むと予測される清末粤語音韻史研究を立体的に捉えるという学術的「問い」についての、代表者なりの解答を成果としてまとめ、所属学会等の学術雑誌に投稿して識者の評価・判断を仰ぐ計画である。 分担者は『天路歴程』(粤語版・正編1871)に引き続き(續編1870)について、書面粤語文体の語法研究を視座にいれつつ、エクセル入力を完成させる。また完成後は、正編・続編を併せて「付加記号」の言語的価値を考察し、その結果を所属学会等の学術雑誌に投稿し、学会の評価・判断を仰ぐものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、コロナウイルスの影響により、資料調査のための旅費を当初の計画に基づき消化することが出来なかったことによる。一方、研究上必要な人件費(データベース入力の為のアルバイト雇用費)は当初予測を超える見込みである。この2点を踏まえて使用額を調整しつつ消化することを計画している。
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