研究実績の概要 |
本研究の研究目的は言語発達遅滞児の語彙獲得プロセスについて明らかにし、健常児のデータと比較して言語発達遅滞児の語彙獲得の特質を解明することである。 定型発達児の語彙習得におけるプロセスを解明する実験から始め、その後26名のダウン症児の語彙習得の実験を実施した。定型発達児の語彙習得ではアメリカでのSwensen, Kelley, Fein, Naigles (2007)の結果に基づいて、日本語母語話者でも2歳までには名詞バイアスから動詞バイアスに発達を遂げる仮説を立てていたが、1ー2歳児(65名)のデータを分析後、1歳児は明らかに名詞優位であるが、2歳児は名詞と動詞が中立であることが分かった。その後、動詞優位に発展する月齢を明らかにするために、3歳児(15名)4歳児(9名)5歳児(14名)6歳児(6名)のデータを追加収集したが、6歳児でもアクション場面とオブジェクト場面の選好追視の時間の差に有意差はなかった。 実験方法を小学生にも適切であるアンケート方式に変更し小学3年生、5年生と大学生からのデータ収集した。興味深いことに新奇語をアクションだと捉えたのは小学5年生と大学生のみであった。現在、アメリカの大学生からのアンケート結果を収集中であり、英語母語話者は大人になっても名詞優位が続くが、日本語母語話者の場合、11歳前後で動詞優位に発展することを明らかにしようとしている。 また、45名のダウン症児を対象にした選好追視法の実験結果は「名詞、動詞優位」、「形バイアス」両方で最も月齢の低い定型発達児と同じバイアスを示すことが明らかになった。ダウン症児の場合は、困難極まりないリクルートの後やっとデータを入手できたとしても、そのうち40%のデータが使用不可能となった。これからの実験をもっと効率よく進めるためにこの不使用になる理由を解明する必要がある。
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