研究課題/領域番号 |
21K00494
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
伊藤 益代 福岡大学, 人文学部, 教授 (10289514)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 複数解釈 / 言語習得 / 意味論 |
研究実績の概要 |
日本語における複数形態素「たち」を含む文の解釈について、日本語を母語とする子供(実験群)と大人(統制群)を対象に実験調査を行った。 英語を主な対象とした先行研究では、子供が大人同様の複数解釈ができないといった結果が得られており、そのことを、子供が語用論的計算が遅れるといったこれまでの報告と関連付け、英語における複数形名詞句の解釈に語用論的計算が関わるといった文析が提案されている(Sauerland et al. 2005, Teiu et al. 2018)。ただ、英語複数名詞句は総称や種類を示す場合も用いられることより、英語児などがその解釈をしていないかどうか、本当に複数に関わる語用論的計算ができないか疑問が残っていた。 本研究では、総称や種類指示には裸名詞を用いる日本語を対象言語にした。また、日本語においては、複数形態素が義務的でない点も、新たな知見につながった。 調査は、真偽値判断法を用いて行い、グループ(大人、子供)、上方・下方含意(肯定文、否定文[被験者内])、名詞句(複数、単数[被験者間])の3要因であった。該当の名詞句の集合のうち1つのみが当該動詞による影響をうけた文脈と文が実験文脈と実験文であり、他は統制のためであった。 結果、1)日本語児は、裸名詞句については、大人同様の、単数・複数解釈ができた。このことは、総称や種類指示には、日本語において裸名詞が用いられるといった知識を有していることを示している。2)否定文については、大人同様の解釈であった。3)大人と同様でない唯一の解釈は、文脈において一つのものしか該当しない場合、複数実験文が偽となるにもかかわらず、日本語児が受け入れたことであった。これは、複数形態素が義務的でない言語においても、複数形解釈において語用論的計算が関わること、そして、(先行研究ではその可能性は残っていた)総称解釈は排除できることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナのためにデータの収集自体が期待通りには進んでいないが、これまでのところ、当初予定してい実験調査のうち、Scalar 計算については、「か」「や」について結果は得られているし、複数形態素を含む文の解釈についても、統計処理可能な一体数のデータも収集できている。両方において、子供の解釈が大人同様でないといった結果は予想通りであるため、両方の意味解釈について同様のむずかしさが関わるであろうといった仮説について大きな変更も必要ないようである。
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今後の研究の推進方策 |
データの収集が遅れてているため成果発表も遅れている。しかし、当初予定してい実験調査のうち、Scalar 計算については、「か」「や」を含む文については大人および子供からのデータは収集できており、一般的な語用論計算が難しいといったことを示す結果は得られた。そのうえで、複数形態素を含む文の解釈についても、一体数のデータも収集できている。両方において、子供の解釈が大人同様でないといった結果は予想通りであるため、今後は、両方の意味解釈について同様のむずかしさが関わるであろうといった議論を行うこと、および、そのことを裏づけるさらなる実験調査を異なる条件で行うことを予定している。これらにより、複数解釈についての意味論・語用論理論自体自体の吟味を考える予定である。 また、2021年度、22年度には、当該テーマについては盛んに研究が発表されており、多言語間差異および、日本語特有の特徴もふまえ、研究を深めることができそうである。 まずは、学会発表を目指し、そこで得られる知見などを参考に、さらに探求することができるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにより、実験施設などにての調査許可が得られず、3月まで待つこととなったため。 また、国内、国外にての学会もオンラインなどで開催されたため、旅費自体の計上もなかった。 まだ、コロナの影響はあるものの、遅れた分の実験調査を行う必要もあるため使用予定である。加えて、その後の、発表のための費用に充てるつもりである。
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