研究実績の概要 |
初期新高ドイツ語期における法助動詞の認識的(epistemic)用法の用例を収集した。作業の最初の段階としてルター訳聖書(1545年)から用例を集めている。現時点ではkoennen, muessen, moegenを中心にしており、まだ用例の収集が終わっていないが、現時点では明瞭な認識的用法の例はあまりないことが分かった。このことは未来形(werdenの直説法現在+不定詞)の推量用法がルター訳聖書においては散見されることに照らすと、未来形の推量用法の発達が法助動詞の認識的用法よりも先行するように見えるが、まだ確定的ではない。但し、明瞭な未来形の推量用法の確立は未来完了形(werdenの直説法現在+完了不定詞、過去の事態についての現在の推量を表す)の成立によって裏付けられ、それは今のところまだ1587年の「ファウスト博士」において最も古い例が見られるのに対し、法助動詞+完了不定詞における認識的用法の例は1498年の「トリストラント」にすでに見られる。すなわち、未来形の推量用法が法助動詞の認識的用法よりも早いとすると、完了不定詞を伴う推量表す未来形よりも認識的用法としての完了不定詞を伴う法助動詞が早く発達したことと順番が逆になるので、さらに用例の収集を進め、実際に順番が逆であるのか、単純不定詞を伴う法助動詞による認識的用法の発達が実際には未来形の推量用法よりも早かったのかを明らかにする必要がある。
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