研究課題/領域番号 |
21K00510
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
田辺 和子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60188357)
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研究分担者 |
井上 史雄 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (40011332)
柳村 裕 国際医療福祉大学, 国際交流センター, 助教 (50748275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 「っす」 / 「です」 / 「ます」 / 新丁寧語 / 連用形 / 終止形 / 性差 / 世代差 |
研究実績の概要 |
2022年度は、5月に行った全国調査の分析とその発表活動に注力した。調査目的は、年代・性別によって文末表現「っす」がどのように進行しているか把握するものだった。調査の結果、予想以上に、20代男性が、同世代の女性や、他の世代(30代・40代・50代)の男性に比較して、文末表現「っす」の使用頻度が高かった。これは、いわば、身近な人(主に先輩格に当たる人)に使う「新丁寧語の出現」と理解できるのではないだろうか。 形容詞の丁寧形:「いいです」や「やすいです」の代わりに、「いいっす」「やすいっす」と使用するのは単に、「です」の代わりの砕けた口語表現と解釈できるが、本研究では、「動詞の終止形+っす」の形(例:「行くっす」「食べたっす」)のように動詞に接続する形式がどの程度、使用されているかに着目した。その理由は、「ます」の代わりの「っす」の使用というのは、従来「ます」が接続していた連用形から終止形にかわることを意味し、これは文法規則の変換であるからだ。この「っす」の出現は、長期的な視野に立つと日本語の変化としては、『「です」の拡張、「ます」の消滅』という現象として把握できる。本研究は、この現象が実際に社会活動の中でどのように実現されていくのか、今回の調査によってその一端を明らかにしている。 また、「新丁寧語の出現」という観点から考えると、敬語における身分の上下を基軸とした言語使用を回避したいという気持ちの一方で、聞き手への配慮は、何らかの形で表したいという間の気持ちが、「新丁寧語」という表現の創出につながっているという考察は、さらに検証すべきだろう。その使用対象が、限りなく身近な、先輩という位置づけに絞られていくのが非常に興味深い言語現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在は、2022年の調査結果データを、二元配置分散分析(各用法の受容度が年齢・性別、または、その組み合わせ(交互作用)によって異なるか調べる統計処理)によって、例文それぞれの傾向を分析している。 例えば、①「キャンプに行くです」の動詞の現在形使用に関しては、20代男の受容度が突出して高かった。②「坂の途中の店で、焼き鳥食べたっすよ」の過去形使用に関する文に関して、「自分でも使う」と答えた回答については、20代から40代の女性に比べて、男性の方が全体的に受容度が高い。そして、男性の中では、50代男性に比べて20代男性の受容度は、非常に高い。 この傾向は、全体を通して考察できる。20代男性の特徴的な社会生活が窺われる。社会人になって間もない立場で、周囲の先輩に配慮し、敬語という従来の「距離を置く」役割をできるだけ排除し、親愛の気持ちを伝える丁寧語化を促進する社会言語活動が顕著である。 本研究は,データを調査だけでなく、インターネット上の検索機能を利用し、インターネット上の使用総数を月に1回程度一昨年から計測している。繰り返しもカウントされてしまうこともあるが、長期的な規模の大きな動向を観察するには、適しているツールであると思う。 こちらの調査では、「行くです」の使用が、ここ数年で飛躍的に伸びたとまでは、言えないが、「動詞の終止形+です」の形を様々な動詞に応用する動きが認識できる。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究期間において、「っす」使用の拡大傾向を、主に「世代」と「性別」という観点で考えてきたが、今後は「地域性」にも着目して、調査・分析していきたいと考えている。「っす」表現は、元々は、関西の大学運動部に端を発した現象だといわれているが、今もなお、関西地方に「っす」使用の傾向は依然としての高く認められるのか調査をしたい。 また、地域差を考える上でその核となる社会言語学的視点としては、「都市性」があると考えられる。この「都市性」という観点の基に、都市性を3段階に区分し、例 ①(東京・名古屋)、②中間地域(栃木・静岡)、③農村地域(秋田・長野)それぞれの地域で「っす」の進行がどの程度進んでいるか比較することを考えている。都市性というのは、人間関係及び価値基準を特徴づける重要な要素であると考えるので、移動が活発になって方言における「地方性」が薄らぐなか、日本における「都市性」は、その土地の人々の言語使用・言語行動にどのように影響を与えているのか、本研究最終年の課題としたい。 また、「都市性」「性別」「世代」の3要素の絡み合いも本研究の総括的テーマとし、「っす」にみる言語変化の複合的要因の実態が把握できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ採集が遅れたため、調査費用が未消費となったが、本年度の調査費用と合わせて使用する予定である。
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