研究実績の概要 |
本研究は総記化 (exhaustification) とよばれる操作の理論的位置付けを明確にすることを目的としている。総記化はonly, even, also等の焦点化子を含む文の解釈や含意の導出に用いられる。例えば,Only Andy came. では,元命題 John came. が真であることが前提であり,No one but John came. が主張となる。この主張を得るため,{Andy came, Billy came, Cindy came, Debbie came, …}のような代替集合が形成され,元命題以外が排除される。この操作が総記化である。 本プロジェクトは,総記化を用いて例外詞 but を含む文の意味論構築からスタートしたが,「集まる」のような複数述語 (plural predicate) の場合に,より興味深い問題が生じることを発見した。例えば,「岸田総理だけが集まらなかった」は容認可能であるが,この文の元命題「*岸田総理が集まった」はかなり不自然である。同様のことは他の焦点化子でも観察される(例:岸田総理も/さえ集まった)。 22年度は,このような振る舞いを示す複数述語の分類について研究をおこなった。「集まる」の他にも「1列になる」「合唱する」等は単数主語でも焦点化子を伴えば容認可能となる(「??Aが一列になった」「(BとCとDが一列になった。)Aも一列になった。」一方,「よいチームだ」「(人間ピラミッドを作って)天井の電球を交換した」では,同様のことは生じない。これらの2タイプの複数述語は Jeremy Kuhn (2020 Natural Language Semantics) が提案している「述語の可算/不可算性」という概念で特徴付けられそうであることがわかった。
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