研究課題/領域番号 |
21K00518
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 渉 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (90293117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非人称構文 / アイスランド語 / 奇態格 / リンキング / 情報構造 |
研究実績の概要 |
本年度はアイスランド語の対格主語構文とラテン語の不定詞付き対格構文を中心に非人称構文の考察を進めた。両者は従来の研究では別個のトピックとして研究されていたが、両構文における動詞の意味構造から動詞の項の形態統語的実現に至るリンキングの過程において対格型/能格型の選択に関わる行為者(actor)と受動者(undergoer)のランク付け(行為者>受動者)が不在であるとの仮定に加えて,話し手と聞き手の視点を共に考慮に入れる双方向性最適性理論を採用することにより、両構文の(受動者項に加えて)行為者項も対格標示を取ることを(他のアドホックな仮定を一切導入することなく)規範的な自動詞文・他動詞文の格配列を説明するために用いられる格付与制約をそのまま用いて説明することができることを示した。また、アイスランド語の非人称構文で通時的に見られる与格置換(Dative sickness)についても、中動態構文を含む他構文の与格標示の経験者項からのアナロジーにより、元来は対格標示の経験者項が与格標示を受ける頻度が増大するにつれて、経験者項が非マクロロール項として再分析を受ける入力最適化により生じること、上記の再分析により経験者項の対格標示が「奇態格」となることを明らかにした。 更に、行為者と受動者のランク付けの不在を説明する動機づけとして、①意味役割階層における経験者項と主題項の(動作主項と被動者項の距離に比べた場合)相対的近さ、②特に非対格文における情報構造(文フォーカス)の2点を考察した。①②は,動詞の複数の項から1つをトピックとして選び出し、そのトピックに対して述定を行うという規範的リンキング(行為者と受動者のランク付けの存在と述部フォーカス)を伴う人称構文と相補的な構文として非人称構文全体(行為者と受動者のランク付けの不在と文フォーカス)を定義づけることを可能にすることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に行うことを予定していた対格型言語の非人称構文のリンキングと情報構造の考察及び非人称構文のリンキングを動機づける要因を解明する作業をおおむね終えることができたためである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に対格型言語における非人称構文のリンキング(特に主語項の奇態格表示)と情報構造について考察を進めた。今後は対格型言語に止まらず、能格型言語における非人称構文のリンキングと情報構造についても考察を進めると共に、研究成果を論文にまとめる作業を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会、国内学会の出張費が発生しなかったため。
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