研究課題/領域番号 |
21K00528
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
上田 由紀子 山口大学, 人文学部, 教授 (90447194)
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研究分担者 |
内堀 朝子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70366566)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本手話 / 非手指標識 / 行動RS / 非手指標識の動詞への波及 / 線状的隣接性条件 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,音声言語を中心に発達してきた自然言語一般の言語理論を,音声言語にはない,手話言語特有の「同時外在化」という新たな視点を加えて,再検討するものである。R5年度は、研究計画に従い、R4年度後期に引き続き、日本手話(愛媛方言)において、同時外在化現象の一つである,RS(レファレンシャルシフトと呼ばれるある種の表現法:1人称(話者)としての表現形式を使って、他者や非現在の話者の様態や情報を伝える表現)のタイプと副詞表現の非手指標識の動詞への波及について観察・分析を行なった。その成果を国内学会で発表した(①日本言語学会第166回大会, ②2023年6月10日、日本言語学会第167回大会、2023年11月11日 )。 R5年度の成果としては、以下の3点があげられる。(i)「行動RS形式の現れる領域に目的語が含まれない」という内堀(2018)での観察に対し、RS形式の表示には、phase headの持つ[+RS]素性の一致が関与しているとする仮説を提案した。(ii) 副詞的要素(以後、副詞)の非手指標識の動詞への波及は、副詞が併合する要素の最大投射まで波及する。そのため、その最大投射内であれば、副詞の左側の要素へも波及可能である。(iii) 上田・内堀(2019, 2021)が日本手話(愛媛方言)における観察を基に提案した「副詞表現の非手指表現の動詞への波及における線状的隣接性条件」は、行動RSを伴う文には適用するが、非行動RSを伴う文には適用しない。上記(i)-(iii) を仮定すると、行動RS形式の外に目的語が現れること、また、行動RSを伴う文に現れる複雑な副詞表現の非手指表現の波及のパターンが適切に予測できることを示した。 また、手話言語の理論言語学講演会「生成文法理論から見た手話言語と音声言語」を講師を招いて開催した(山口大学,1月30日および2月1日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
R5年度、研究を進めていく中で、RSのタイプと副詞要素の動詞への波及に関する線状的隣接性条件および波及可能性自体に新たな観察があり、そのまとめに時間がかかり、RSを伴った文を使った削除文にまで調査が至れなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
RS(特に行動RS)を伴った文における削除とその空項の指示について観察と分析を行う。また、最終年度としての研究総括を行うとともに、昨年度、予定していた研究成果の発信に関しても、情報補償を意識しながら、ろうの研究者と協働で言語学コロキアムを行う予定である。R6年度前期は、その準備も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
R5年の調査の過程において、新たな観察があり、そちらのデータをまとめることに時間がかかり、予定された調査項目へ至ことができなかった。それに伴い謝金および調査に係る経費が使用されなかった。また、R5に予定していた最終報告 の成果発表会の開催もR6年度に延期したことにより、開催のための費用(講演者への謝金・人件費・その他)が使用されなかった。 使用計画としては、残った調査を行い(謝金・人件費・交通費)、研究総括を行う(出張旅費)。また、予定している最終報告会を開催する(講師への謝金・人件費・通信費)
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