研究課題/領域番号 |
21K00547
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
轟木 靖子 香川大学, 教育学部, 教授 (30271084)
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研究分担者 |
山下 直子 香川大学, 教育学部, 教授 (30314892)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 方言調査 / 言語形成期 |
研究実績の概要 |
本研究は、方言調査における調査対象者を、いわゆる「生え抜き」あるいは「言語形成期を調査値で過ごした話者」 とすることについて、方言調査の項目によって、かならずしも言語形成期をずっと同一の地域に居住していなくても調査対象者とすることができるのではないか、という問題提起のもと、調査項目によって伝統的な要素を身につけ残す可能性が高いのがどの時期であるかを明らかにすることを目的としている。たとえば、アクセントであれば3歳から12歳まで、語彙であれば1年以内であれば外住歴があっても影響しない、というようなことを統計的に検証することを試みるものである。 初年度(2021年度)は、岡山方言話者と香川方言話者20歳前後数名ずつの協力を得て、2拍名詞(第1類から第5類)のアクセントについての予備調査をおこなった。当初の予定では、外住歴のある話者についての調査も計画していたが、思ったよりも該当する協力者がいなかった。調査協力者が20台ということが影響したためか、アクセントはほとんどが共通語のアクセントの回答であった。ただ、調査方法がリストを読み上げるかたちで録音を取ったため、普段リラックスしたときの話し方が出にくかったともいえる。今後調査方法についてはさらに検討が必要である。この調査結果については、近畿音声言語研究会2月月例会で発表をおこなった。この後、方言の会話文に調査語彙を埋め込んで読んでもらう調査を何人かの話者を対象に実施した。現在その結果について分析をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、岡山と香川の方言話者について、言語形成期をどちらかの地域でずっと過ごした話者と、他の地域に居住したことのある話者や引っ越してまったく異なる地域で過ごした話者等を集めて予備調査をおこない、比較をする予定であった。しかしながら、当初の予定ほど外住歴のある話者を集めることができなかったため、言語形成期を岡山県内、香川県内で過ごした話者に2拍名詞のアクセント調査をおこない、とくに香川県内で過ごした話者について詳しい分析と考察をおこなった。話者が20歳前後ということもあり、多くは共通語と同じアクセントが見られたが、一部の話者については第3類の「花」「犬」「色」をH0型で発音する伝統的なパタンも観察された。この結果については、近畿音声言語研究会2月月例会で発表した。質疑応答で話題になった点として(1)伝統的なアクセント型を保持していない話者を香川方言話者と呼んでいいのかという疑問、(2)たとえば東京方言話者であれば中高型形容詞の連用形(~く・なる)の型で伝統的なアクセント保持者かどうかわかるので、いつを対象地域で過ごしたかではなく、対象地域の方言の何を残しているかに着目する方法もあるのではという提案もあった。今後これらを踏まえて調査・分析を重ねたい。
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今後の研究の推進方策 |
アクセントの調査については、リスト読み上げではなく、会話文を作成し、普段の言い方(方言)になおしてもらい、その会話の中にターゲットとする名詞を入れて読んでもらう方法を、岡山方言話者と香川方言話者に実施し、現在分析をおこなっているところである。調査結果をふまえて、修正しつつ、調査対象を増やす予定である。とくに香川県の話者については、伝統的なアクセントを残しているかどうか以外の特徴を探る予定であり、そのためには外住歴のある回答者との比較も必要である。昨年度は語彙項目の調査ができなかったため、今年度は伝統的な方言語彙をどのくらい保持しているかについても調査をおこなう予定である。これについてはすでに予備調査を実施しており、本人が使用していなくても家族が使用している(のを聞いたことがある)かどうかをあわせて尋ねることで、使用者が減りつつある時期をある程度類推することができる。香川方言については人に会ったときの声かけの言葉「なんしょんな」の文末の「な」が10代から20代の若い世代では使われず「なんしょん」となる傾向がみられるが、それより上の世代ではこの文末の「な」の使用と伝統的な方言語彙あるいはアクセントを保持しているかどうかとの関連も予測しつつ今後調査研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、方言調査については岡山県および香川県で生まれ育った話者だけではなく、外住歴のある話者にも協力を依頼する予定であった。しかし、思ったよりも外住歴のある話者が少なく、調査の規模も縮小せざるをえなかった。結果として調査協力者へのお礼、データ入力の作業に対する謝金等が支出予定額を下回ったため、それが残額となった。また、計画書を提出した段階では、香川県内や岡山県内での方言調査を予定し、そのための旅費も計上していたが、新型コロナウィルス感染症の流行が収束しなかったため、遠隔システムを利用した調査に切り替えることとなり、旅費も使用することがなく、残金となった。 次年度は新型コロナウィルス感染症の流行状況を注視しつつ、可能な範囲で調査を実施し、また外住歴のある話者への調査もおこない、当初次年度に予定していた調査研究内容とあわせて実施することで使用する予定である。
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