本年度は、最終年度として、『小野篁歌字尽』の総合的なデータ化を整理して、研究成果報告書「『小野篁歌字尽』とその展開」を作成した。また、その一部として『小野[竹冠に愚]嘘字尽』の展開」(国文学108、2004.3)を発表した。前者では、3年間のまとめとして、第一部で『小野篁歌字尽』の字体資料としての資料性を論じ、その展開資料の整理を行った。第二部では、とくに『小野[竹冠に愚]嘘字尽』を中心とした展開資料を吟味して、『小野篁歌字尽』の展開資料のあり方について、その影響の大きさについて考察した。また、展開資料一覧に加え、諸本一覧、掲出字一覧、字体一覧、『うそ字拾遺』字体表を資料として付して、今後のこの方面の研究の基礎資料を公開してある。後者では、とくに複雑な版種のあり方が問題となっている『小野[竹冠に愚]嘘字尽』の出版事情を明らかにしたうえで、その展開資料の整理して、『小野[竹冠に愚]嘘字尽』にない「嘘字」の方法を明らかにし、その上で『小野[竹冠に愚]嘘字尽』自体が起点となる『小野篁歌字尽』の展開資料の一群の存在を明らかにすることで、新たな「嘘字」作成が展開の一方法であることを指摘した。これによって、『小野篁歌字尽』の展開の方法として、歌による文字習得の方法を継承した流れと、「嘘字」作成、新たなパロディー化による展開の方法、さらに「歌字尽」という書名の継承のおおきく三つの方法を指摘し、それぞれの方法による資料の整理をおこない、近世を通じてさまざまに展開した『小野篁歌字尽』の展開資料について、「文字生活史」からみた全体像を記述した。
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