2021 年度実施状況報告書

明治・大正・昭和の文学作品における外来語の分析

研究課題

研究課題/領域番号	21K00563
研究機関	大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
研究代表者	飛田良文大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 名誉所員 (40000418)
研究期間 (年度)	2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード	外来語 / 小説 / 表記 / 原語 / 使用例
研究実績の概要	2021年度は、明治期の文学作品における外来語の調査・考察をする上で重要な研究の視点・方法の問題点を、坪内逍遙著「当世書生気質」（M18)を中心に考えた。逍遙は小説の近代化に努力したが、「当世書生気質」の体裁は、江戸時代の草双紙とあまり変わっていない。しかし、登場人物は近代化を反映する書生が中心で、その会話に使用される外来語(外国語)には世界の用語が使用され、話者が誰で、どのような立場で、出身地はどこか、など、位相の問題が提起される。また、外来語用例集のためのデータ入力を進めており、原語、原語つづり、語種(和製外来語・固有名詞など)、語構成などの情報入力も進めた。ただ、外来語か外国語か、あるいは原語の判断に困難なものがある。例えば「ヒステリー」は『日本国語大辞典』第二版には、見出しに「ヒステリー〔名〕(ドイツHysterie)　（ヘステリー・ヒステリヤ）とあり、用例には、　＊扶氏経験遺訓(1842)「（略）婦人に歇以私的里(ヘイステリー)と謂ふ」　＊内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉「（略）女性は『ヒステリヤ』を発〈おこ〉すもあれば」　＊それから(1909)〈夏目漱石〉「三千代は歇私的里(ヒステリ)の発作に襲はれた様に（略）」と、歇以私的里(ヘイステリー)，ヒステリヤ，歇私的里(ヒステリ)の語形がある。ヒステリヤは英語hysteriaである。石綿敏雄の『基本外来語辞典』(1990)には、「ヒステリー〔オランダhysterie,ドイツHysterie〕（略）例：「歇似私的里(ヘステリン)緒方洪庵訳『扶氏経験遺訓』(1857)、「歇私的里(ヒステリー)性の笑ひ」夏目漱石『虞美人草』(1907)」とある。このように辞書による判断にも差異があり、表記別語形見出しの原語を判断する際には、注意が必要となる。そのため、使用された作品の書誌の調査が必要となり、作業が遅れている。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 3: やや遅れている理由外来語用例集のためのデータ入力を進めており、原語、原語つづり、語種(和製外来語・固有名詞など)、語構成などの情報入力も進めた。ただ、外来語か外国語か、あるいは使われている外来語に同音でも、オランダ語由来なのか、英語由来なのかなど、原語の判断に困難なものがある。これには、経由地や時代などの背景を調査して推測する方法をとっている。この作業の中で、明治期の文学作品における外来語の調査・考察をする上で重要な研究の視点・方法の問題点を、坪内逍遙著「当世書生気質」（M18)を中心に考えた。逍遙は小説の近代化に努力したが、「当世書生気質」の体裁は、江戸時代の草双紙とあまり変わっていない。しかし、登場人物は近代化を反映する書生が中心で、その会話に使用される外来語(外国語)には世界の用語が使用され、話者が誰で、どのような立場で、出身地はどこか、など、位相の問題が提起される。また外来語辞典を複数参照する時も、辞書により判断に差異があり、表記別語形見出しの原語を判断する際には、注意が必要となる。そのため、使用された作品の書誌の調査が必要となり、作業が遅れている。
今後の研究の推進方策	これまでの経緯から、原語を見極める際の注意点や、外来語＋外来語（英＋オランダ）などの語構成による和製語といった、外来語ならではの問題点が新たに浮上しつつある。これらを正確に分類し、歴史的背景を含めた分析を行っていく必要が強く感じられ、今後、その点に留意しつつ、外来語用例集として利用しやすく（検索しやすく）、分析する際に参考となるデータ集を作り、それをもとにした外来語の流入背景、利用背景、歴史的変移などを考察していく。これらは文学作品を使用する事で、外来語が使われている時代の様子も推測できる。この事をふまえて作品は、できるだけ大衆向けのものを選び、現在でも参照が可能なもの（復刻版がある。国会図書館近代デジタルライブラリーなどでダウンロードできる）を使用した。著作権が切れていないものに関しては、古書を探し、可能なかぎり初版にこだわっている。
次年度使用額が生じた理由	新型コロナウイルス感染症の関係で、複数人数による対面での会議や地方での書籍調査がが難しく、旅費が使用されなかった。また別事業の作業期間が延長され、そちらの作業に従事していたため、謝金の支払いも行われなかった。次年度は、問題点の共有のためにも対面による会議の開催と、調査入力作業などにかかる謝金の支払いが発生する予定である。