研究課題/領域番号 |
21K00563
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
飛田 良文 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 名誉所員 (40000418)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 外来語 / 近代語 / 小説 / 表記 / 使用例 / 原語 |
研究実績の概要 |
2022年度は、明治期・大正から昭和戦中期の文学作品における外来語の調査・考察をする上で必要なデータベースの作成を行なった。作成には、当該時期に発行された文学作品の中で、できるだけ作者と発行年が重ならないものを選んだ。その中から外来語が含まれた文章を抽出し、それぞれに文章に使われた形の「見出し語」と並び替えや検索に必要な「大見出し」、当該ページ行数を入力し、原語、原語つづり、語種、語構成などを補足した。原語については、「外来語」と言う意味づけから、どの国から日本にもたらされたかで判断し、その語が発生した国とはしていない。そのため、作品の中で登場する場合、ギリシャ・ローマ神話の神々の名前などは、現在一般的に使われる「ヘラクレス」といったギリシャ語由来の名ではなく、英語名の「ハーキュリス」(夏目漱石『吾輩は猫である』1906)で項目を立て、空項目に「ヘラクレス」を立てるなどしている。この場合、夏目漱石が英語教師であった個人的な環境からと推測されるが、他の作品においても、現在と異なる原語由来の語の場合には、個人的な背景からか、当時の外国語習得環境全般によるものか、などを考察する必要がある。同じように、同一の物を指す際に異なる語で登場したり、同一語にもかかわらず、日本語に定着する過程で表記が異なる場合など、その背景と合せて注意する必要がある。例として「ストライク」と「ストライキ」は原語では同一語であるが、日本では当初は使用例が錯綜している。 また、文中では「窓ガラス」など、外来語の前に和語がついている場合も、「ガラス」から検索できるように大見出しを立てた。この場合、語構成についても「和+蘭」の形であると入力する必要があった。現在、昭和戦後期の外来語用例集を同様の方法で編集中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
外来語用例集のためのデータ入力を進めており、原語、原語つづり、語種(和製外来語・固有名詞など)、語構成などの情報入力も進めた。ただ、外来語か外国語か、あるいは使われている外来語としては同音でも、オランダ語由来なのか、英語由来なのかなど、原語の判断に困難なものがある。これには、経由地や時代などの背景を調査して推測する方法をとっている。しかし、第二次世界大戦終了までは、世界中にヨーロッパの植民地があり、現地の語なのか、宗主国の語なのか、判別が難しいものもあるため、資料を調べるなどの手間が懸かっている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの経緯から、原語を見極める際の注意点や、外来語+外来語(英+オランダ)・外来語+漢語、和語+外来語(それぞれ逆もあり)などの語構成といった、外来語ならではの問題点が新たに浮上しつつある。 これらを正確に分類し、歴史的背景を含めた分析を行っていく必要が強く感じられ、今後、その点に留意しつつ、外来語用例集として利用しやすく(検索しやすく)、分析する際に参考となる詳細なデータ集を作り、それをもとにした外来語の流入背景、利用背景、歴史的変移などを考察していく。これらは文学作品を使用する事で、外来語が使われている時代の様子も推測できる。この事をふまえて作品は、できるだけ大衆向けのものを選び、現在でも参照が可能なもの(復刻版がある。国会図書館近代デジタルライブラリーなどでダウンロードできる)を使用した。著作権が切れていないものに関しては、古書を探し、可能なかぎり初版にこだわっている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の関係で、複数人数による対面での会議や地方での書籍調査がが難しく、旅費が使用されなかった。次年度は、問題点の共有のためにも対面による会議の開催と、継続して調査入力作業などにかかる謝金の支払いが発生する予定である。
|