研究課題/領域番号 |
21K00567
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
中村 良夫 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (20237449)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 英語学 / 英文法 / 英語語法研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生成文法理論で提唱される制約等から逸脱している(ように見える)のに容認される例を洗い出し、そのメカニズムを生成文法の統語的なシステムの内外から探ることである。研究を行う上で言語現象の事実として対象としては、生成文法理論をはじめとする英語学や理論言語学の枠組みで研究されている事象のみならず、伝統文法や学習文法、さらには語法研究のコンテクストで取り上げられるような事例についても光をあてて解明する。このような研究目的と実施計画の前半として今年度(2022年度)は昨年度の研究において発掘した英語の語法に見られるネイティブ・スピーカーの判断に揺れや変化が見られる現象(具体的には 'be likely to' の「人の性向や傾向を表す」用法でのアメリカ英語とイギリス英語の違い、assing と ascribe/attribute のカバーする範囲の違いに関して辞書間で見られる違い、disdain や scorn が動詞としての機能をなくしている事実、さらには辞書等で指摘されている meticulous のアメリカ英語とイギリス英語における違いが現代のネイティブ・スピーカーの間では失われていること等)を取り入れた英語語彙に関する書籍を、研究代表者を筆頭執筆者として2022年9月に出版した。生成文法理論関連の研究としては、英語の前置詞残留構文について、空所化に関するデータが疑似受動構文においてのみ特殊なふるまいを示すことを指摘し、いわゆる reanalysis 現象とは受動分詞と前置詞の組成共有であるという分析を提示する論文を作成している。これは2023年度前半に海外ジャーナルに投稿を予定しておりその準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に述べた通り、本研究の特に語法研究的な分野での事実群を新たに指摘した部分を含む書籍を出版(2022年9月予定)し、成果として公開することができた。また、統語研究に関する部分としては、前置詞残留研究のデータが収集できたので位相理論についての関連として生成文法理論の海外ジャーナルに投稿する準備を進めている。以上を踏まえて、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間にわたるプロジェクトであるが、2年度までに主として語法研究的な事実群の指摘を中心として進め、成果を著書として公開することができた。3年目となる2023年度は統語研究に中心をおいて進めていく。具体的な理論基盤としては近年の生成文法理論の中心的研究対象となっているラベリングとフェイズのメカニズムに基づくものとし、 'Harry was spoken to by Myra, and Mike was (*to) by Sandy.' という Nakamura (1988)で指摘した事実にもいわゆる再分析 (reanalysis)操作を受動分詞と前置詞の組成共有として現代的な枠組みで見直すことで分析できることを示し、さらには 'John was seen *(to) cross the street.' といったよく知られた事例や、*I left the door opened.の非文法性とその他の文法的な例の対比といった事例を説明する。予測としては、従来A移動と言われた現象の特性(位相がないかのように一気に移動するように見える)を解明することに寄与する研究となると考えられる。また、関連分野として、空所化現象のメカニズムにも触れる必要があり、それについては従来の残留要素の移動や動詞のATB移動といった分析ではうまくいかないことを示し、削除素性 (E-feature) の付与に基づく新しい分析が浮上すると予測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究活動として語法研究関連の著書出版準備に注力したために文献収集の費用が少なくなった。また年度後半はすでに収集していた資料に基づく研究や、費用が必要にならないネイティブスピーカーのインフォーマントチェックなどの作業を行っていた。次年度は統語研究関連に集中するために、論文執筆の準備に関連する生成文法理論関連の文献を多量に収集する必要があるために、助成金の多くを文献購入費用に使用する予定である。
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