研究実績の概要 |
英語の所有構文の定性効果に関するこれまでの先行研究では、定性効果が生じるのは、所有動詞の目的語に親族関係や身体部分などの関係概念を表わす名詞が用いられる場合であるとされてきた。親族関係や身体部分は、他人に譲渡できないものであり、譲渡不可能所有と呼ばれる。つまり、譲渡不可能所有という概念こそが、所有構文に定性効果を生じさせる原因だとされてきた。一方、この概念の対となる、譲渡可能所有が表わされる場合には、その効果は出ないとされる。しかしながら、先行研究の説明に反して、たとえば、譲渡可能所有が表される場合であっても定性効果が生じる場合もあれば、反対に、譲渡不可能所有を表わす場合でも、定性効果が現れない場合もあるという言語事実がある。本研究は、こうした従来の説明では十分に捉えられない事実を包括的に説明しようという試みから出発している。本研究の目的に照らして、初年度の2021年度は、こうした言語事実を統一的に説明する条件を探り、従来あまり注目されてこなかった、名詞句の意味機能の観点から、これらの構文の定性効果を捉えなおした。具体的には、Nishiyama (1997, 2008, 2020)や西山 (2003, 2009, 2013)における日本語のコピュラ文や絶対存在文などの知見に基づき、英語の所有構文の定性効果を、所有動詞の目的語名詞句の意味「機能」の観点から考察した。その結果、たとえ目的語名詞の表わす意味自体は同じであったとしても、その名詞句が変項名詞句なのか指示的名詞句なのかに応じて、定性効果の有無に差が生じると結論付けた。
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